山男の話は覚えてるだけで4つあるんだけども、>>324の山男の話を投下するよ。
ある時、いつものように山に入ったじいちゃん。
その日はウサギの罠の様子を見ようと思っていた。
全部で5つ仕掛けたから、近いポイントから順に回っていくことにした。
1つ目のポイントは山に入ってすぐの所。罠にはかかってない様子。
2つ目・3つ目はそこから左へ行った所。それらもかかっていなかった。
今日は不調だな、と感じながら4つ目のポイントへ向かうじいちゃん。
4つ目のポイントは、3つ目のポイントから登った所だった。
そのポイントは絶好のポイントで、勝率も高かった為、じいちゃんは意気揚揚と罠を確認してみた。
しかし残念ながら、そこも不発。
どうしたもんかな、と罠の近くに腰をかけ、ぼんやりと罠を見つめているとある事に気が付いた。
罠は外されていたんだ。
ウサギは一度捕まり、そして誰かが罠を外している(自力で脱出出来るもんじゃなかったらしい)。
その事にじいちゃんは腹を立て、急いで5つ目のポイントへ向かった。
5つ目のポイントは4つ目のポイントに近い所。
だからそこも外されている可能性があったからだ。
「くそう、横取りしやがって」と、誰だかわからない犯人を憎憎しく思い登っていった。
そして5つ目のポイントの傍までやってきた時、罠の辺りに傍目からでも分かる大きな人が屈んでいるのを見つけた。
「あいつだ!」
声を上げずに近くに佇んでいる樹木の影に隠れるじいちゃん。
そしてそっと様子を窺った。
その大きな人は、罠の辺りにじっと屈んだまま動かない。
と、ガサガサと物音が立ったと思ったらすくっと立ち上がった。
やはり罠を外していたのはそいつだったようだ。
しかしそれよりも、その大きな人に目が行ってしまい、じいちゃんは怒鳴りつけることも出来なかった。
じいちゃん曰く、「ジャイアント馬場よりでかいぞ!あいつの倍はある!でっかいぞー!」ってぐらいでかい人。
そんな大男、じいちゃんは今まで見たことがなかった。
じり…っと後退りしたじいちゃんの足が、辺りに生えていた雑草に触れ、ガサリと音を立ててしまった。
大男は物音に気づき、「誰かおるのか。」と聞いてきた。
じいちゃんは逃げたいのに怖くて動けなかった。
大男は続けて、「罠を仕掛けたのは、お前か。」と聞いてきた。
そしてそのまま振り返り、じいちゃんの姿を捉えてハハハと笑い声を上げた。
「取って喰ったりせん。茶と柿があるぞ、こっちに来んか。」
そんなことを言われても、体が言う事を聞かないから行くことは出来ない。
じっとしているじいちゃんを見て大男はそれに気づいたのか、「体が動かんか。」と尋ねながら近づいてきた。
ひぃっと息を飲むじいちゃん。
大男は樹木を挟んでじいちゃんの隣に腰を下ろし、干し柿をじいちゃんに手渡した。
食べ物を貰うということで警戒心がほぐれたのか、じいちゃんは腰が砕けるように尻餅をついた。
そして大男の外見をまじまじと見てみる。
真っ黒に日焼けした肌、ぼさぼさに伸びきった髪、背中には薪が積まれ、獣臭が鼻をついた。
「お前があの罠を作ったのか。」
干し柿を食べているとそう尋ねられ、うん、と思わず返事をしてしまった。
「そうかそうか。あの罠は上出来だ。お前は器用だ。」
そこで罠を外した犯人だということを思い出し、じいちゃんは小さく聞いてみた。
「なんで罠を外したの?」
すると大男は竹筒に入った茶(水かもしれない)を飲み、こう答えた。
「罠にかかっとったウサギはまだ小さかったからな。小さいのは見逃してやってくれんか。」
「わしはいつも見逃しとる!」
「おお、そうだったか、お前は麓の村の子供か。」
「そうだ。」
「ふむ……お前の村はよく出来た村だ。」
「どういうこと?」
「お前の村は生き物を無闇に殺したりせん。木もそうだ、切り方も、切る木の選び方もちゃんとしとる。」
じいちゃんはさっぱりわからなかったけれども、自分の村を誉められているのはなんとなくわかったので、なんだか嬉しくなった。
しばらく、2人で山について話をしていた。
(どんな内容だったかは、じいちゃん、手振り身振りで話してくれたけどもさっぱり忘れた。)
もうどれぐらい時間が過ぎたのかはわからないが、さて、と大男がいきなり立ち上がった。
「もう戻らんといかんからな、お前も気をつけて下りるんだ。」
「家はどこ?」
「お前には来れん所だ。」
薪を背負い直す大男は、最後にこうじいちゃんに言い残した。
「くれぐれも山を乱さんようにしてくれ。わしらが生きていけんようなるからな。」
「わしは乱してない!」
じいちゃんの声にハハハと笑いながら、大男は山の奥へと消えていった。
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