昭和の30~40年代、消火栓とかがあまり普及されていない時代の話だ。
当時の家屋やアパートは大抵は木造で冬場の乾燥した時期など、一たび火を出せばそれはあまり江戸の頃と変わりなかった。
だからどこの地域にもそうした時のために池が掘られてあった。
その池の周りには大抵フェンスなどの柵が設けられている。
同時に子供達には絶対に中に入ってはイケナイと申し渡されていた。
深いんだ、5メートル以上かな。
だけどその池には過去に二人の子供が死んでいた。
フェンス子供の背丈から見れば随分と高かったのに。
またなんで入ったのか。
その子の通学路にその池はあり無論そんな話は常々聞かされていた。
だがその日その池の前を通りかかると水辺に一つコマが浮いていた。
当時その子の学校ではコマが流行っていた。
その子は半ば引き寄せられるように池に近づいていく。
フェンスにしがみつきジッと浮かんでいるコマを見つめている。
フト横を見るといつもは大きな南京錠で閉じられている扉が、その日はどうしたことか薄く開いている。
その子はゆっくりと扉に近づいていった。
中は下草が生えているだけの何処にでもある池の縁。
幸いなことにそこに一本の棒が落ちていた。
コレを使えばあのコマを岸辺まで引き寄せられる。
その子は右手に棒を持ち左手でフェンスに掴まりながら棒の先端をコマに近づける。
あと僅かで届かない、だけど波を立てて引き寄せ先端はようやくコマに触れた。
やった、その子はそう思うと同時にフト自分の真下を見た。
池の中に誰かいる、ニコニコ笑って自分を見ている自分と同じぐらいの年頃の少年。
思わず左手で掴んでいたフェンスを離す。
その子が気が付いたのは病院のベットの上だった。
偶然通りがかった近所の人が助けてくれたそうだ。
その池いまはもうない。
しかし潰されるまでの間、いくらカギを閉めてもナゼ錠が開いていて、パタンパタンと扉が風に吹かれていることが多かったそうだ
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