なくなった盆踊り

夏祭りの季節が近付いてきたけど、俺は盆踊りが苦手だ。
亡くなった人の魂を迎えて慰めるための祭りで、踊ってるうちにそういう人が混ざったりする、 なんて言うけど、昔住んでいた地区の盆踊りではどうも変なものが混ざってしまったらしい。

その地区では俺が小さい頃は毎年盆踊りが開かれていた。普段はゲートボール場になってるとこに男達が赤い櫓を建てて、少年団が花飾りを作って付けて、婦人会が食べ物を用意してて、それをじいちゃんばあちゃんが日陰で涼みながら見てる。
それがすごくワクワクして、その頃は 盆踊りという行事が大好きだった。

盆踊りが始まってしばらく経つと、踊るのに飽きてしまったので俺は櫓の近くに座って、同い年のYと一緒に、踊っている人を見ていた。
踊っている人たちは顔にお面をつけていて(ご先祖がこっそり混ざってもわからないようにするためだとか)顔が見えない。
「あれはKのおばちゃん!」などと言って、当てっこした。

狭い地区内だから全員が全員を知っている。
たまにわざと名前を間違えて、踊っている人をからかったりして遊んでいた。
ふと、Yが「あれ、誰?」と言って指差した。暗い色の浴衣を着た痩せた男のようだった。
見覚えがないが、他の地区の人が遊びに来ることもあるし、誰かの親戚か友達かも、ということであまり気にしなかった。

そのうち、ビンゴ大会が始まって、俺とYは司会のおっさんを手伝って景品を櫓の下に取りに行った。
赤と白の幕をめくって中に入ると、隅の方で何かが動いた。
櫓の中で飲み物を冷やしていたからそれを取りに来た誰かかと思った。
人懐っこいYが「誰ー?」と近付いて行って、「ヒッ」と声をあげた。

そこに屈んでた何かがこちらを向いた。
櫓の外の明かりに照らされて、口の周りが脂でテカテカ光っていた。
そいつは生の状態の焼き鳥用の肉を貪り食っていたのだ。
さっきの暗い色の浴衣の男だった。
大きく裂けた真っ赤な口と鋭い牙のような歯が見えて、俺とYは悲鳴をあげて櫓を飛び出した。

びっくりした皆がこっちに集まってきて、「何だ、どうしたんだ」と聞かれ、見たままを話して大人が櫓を覗いたのだが、そのときにはもう何もいなかった。
櫓の周りには人がたくさん集まっていたはずなのに、あの暗い色の浴衣の男を誰も見ていなかった。
が、櫓の中の食料は確かに食い荒らされていた。
大人達は「犬の仕業かねぇ」「あんたら、オバケでも見たの?」と笑っていた。

しかし、翌年から盆踊りはなくなった。
理由を聞いても「人が少なくなったから」とはぐらかされるだけだった。
あの頃子どもだった俺たちには疑問ばかりが残り、何となく盆踊りが苦手になってしまった。

ほんのりと怖い話43

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