背が高くとても痩せたお爺さん

私の家族が体験した話です。
10年くらい前の話なのですが、なんとなく口に出すのがはばかられることだと思っていました。

私の実家は、店舗兼家屋で前から見たらお店、裏に回ると家の入口といった感じになっていました。
自分の実家ですが、裏の入口は暗く狭いし、知らない人はそこに入口があるということも気づきづらいらしく、宅配便の担当者が変わるたびに電話でお宅はどこでしょうかと聞かれるようなところでした。

ある日、両親は店舗で仕事、妹が居間にいたとき、裏口のほうに来客があったそうです。
インターホンはなかったので、妹がはいと返事をし鍵をあけると、ドアをガバっとあけて背が高くとても痩せたお爺さんが入ってきたそうです。
そして、「社長はいるか」と言ってきたそうです。
社長?と思ったそうですが、自営業なので父のことかと思い、前の店舗で仕事をしているということを伝えているのにもかかわらず「社長はいるか」の一点張り。

そして、妹がひるみながら対応していると、ずかずかと居間にあがりこんだそうです。

もう駄目だと思い、妹は家の中から店舗に行き父を呼びました。

父も見たことがない人だったようで、社長というかこの家の主は自分だということを説明したそうですが、
「社長に会いたい、●●という人だ、昔お世話になったのだ」
と言うばかりでどうも話も通じない。

そのうち母も店舗側から家に入ってきて、妹、父、母でどうもこの人はおかしいと思いだしたそうです。

もしかしたらちょっとボケちゃったご老人が間違って訪ねてきたのかな?
と思い、とにかくうちは違うから帰ってくれと言いました。
でもその老人はなかなか帰らず、社長に会いたいと繰り返したそうです。
20分ほどたっても帰ろうとせず、仕方なしに父がどんどんその老人の体を押す形で玄関まで連れて行き、なんとか靴を履かせ玄関の外に出しました。

外にはタクシーが待っていて、どうやらその老人が乗ってきた車のようでした。
父と老人がタクシーに近づくとタクシーの後部座席のドアがあき、ドアが開くと老人もすんなりタクシーに乗り込んだそうです。
そしてドア閉まりタクシーは発進。やれやれと思ったそうです。

私はこの話を母、父、妹の3人からそれぞれの立場で見たことを聞きました。
妹も母も老人の静かながらも強引に家に入り込んできて話が通じないところが、不気味でとても怖かったそうです。

普段父はとても怖がりで、「怖い話」の類は嫌いでそんな話をすると本気で怒るくらいなのですが、父の話には母と妹の話より続きがありました。

父だけが外まで老人を連れていく形になりタクシーを見送ったのですが、ふと運転席を見るとタクシーの運転手は見えなかった、というかいなかったそうです。
そしてその老人が乗って行ったタクシーは、父も今まで見たことのない古ぼけた形の車だったということです。

不可解な体験、謎な話~enigma~ 70

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