時空話になるのかな。もしかしたらオカルトじゃないかもしれないけど許してね。
去年のお盆のことだ。
帰省していたときに近所の従姉と会い、世間話をしながら一緒に歩いて帰った。
俺にとっては久々の帰省で、少し地元の風景も変わっていた。
川原の廃工場がなくなって、ステンドグラスのついた祭儀場みたいな建物になっていたりとか。
話の流れで、従姉に川原の廃工場がいつ取り壊されたのか聞いてみたら、
「工場は今もそのままだ」
という。
どうも俺と従姉の認識が噛み合わないので、工場を確認しにいくことに。
工場のあるはずの場所には、俺が見たとおりの建物があった。
地元民である従姉が工場の建て替えに気づかないはずがない。
よく見るとその建物もおかしい。
俺が地元を離れたのは2年程前なので、新しく作ったならまだそれなりに綺麗なはずだが、見るからに築10年は経っている。
謎の建物の入り口はガラスのドアだった。
さすがに侵入する気はなかったが、少し中を覗き込んでもいいかと思い、建物に近づく俺たち。
中はロビー風になっていた。ステンドグラスがあるのは奥の部屋らしい。
ロビーのソファに20代前半くらいに見えるスーツ姿の男がいて、ペットボトルのお茶を飲んでいた。
青年は俺たちに気づいてドアを開け、にこやかに
「自分は仕事があってここに来た。君たちはこの町の人かな」
のようなことを言う。
爽やかな好青年っぽい雰囲気だったが、俺たちが地元民だと言ったとたん豹変。
俺と従姉を建物内に引っ張り込み、奥につきとばした。
以後の青年の態度は電波すぎる。覚えている発言を箇条書きにする。
・穢れた民族の末裔め。
・眼鏡は穢れた者の証。(俺のこと)
・ガリガリなのは穢れた者の証。(俺のこと)
・スカートは穢れた者の証。(従姉のこと)
・青と黒の服装は穢れた者の証。(従姉のこと)
・空が曇っているのは穢れたお前たちが訪れる予兆。空を返しなさい。
・お前たちから穢れたチョウの血を感じる。(チョウ?蝶?朝鮮?)
他にも言っていただろうが覚えきれないし、どのみち電波で意味不明だ。
逃げようとすると攻撃された。
「ひざまずきなさい!」
とキレる青年に、俺は殴りとばされ、従姉は腕をひねりあげられた。
そのとき、閉じたドアにまとわりつく黒い蝶を見て、青年は従姉をビンタし、俺を蹴って外に出ていった。
青年が
「貴様だけは許さん! ひざまずきなさい!」
と叫びながら蝶を追いかけている間に逃げた。
翌日、おそるおそる工場跡を見にいったが、そこにあったのは謎の建物ではなく見知った廃工場だった。
地元の幼馴染にも廃工場と謎の建物についてちょっと訊いてみたが、謎の建物を見たやつはいない。
青年はただの電波男だったのかもしれないが、穢れたチョウの血がどうのという発言だけ少し気になる。
地元には『お盆になると先祖が虫の姿をとって帰ってくる。だからお盆の時期は虫を敬え』という風習がある。
どんな虫かは死者個々人で違い、俺と従姉の共通の祖父の場合は、カラスアゲハだ。
だから何だよ、って話かもしれないが、穢れたチョウの血というのはもしかして祖父の血のことか?
そしてあのときドアにまとわりついて結果的に助けてくれた蝶は、祖父だったのかもしれないと思う。
ちなみに親戚はみんな日本人。弥生時代の渡来人の血くらいは流れているだろうけどね。
不可解な体験、謎な話~enigma~ 57