ある晩、友達A(♀)から電話が来た。
「ねえSさん(俺)、ドッペルゲンガーって知ってる?」
「あー、なんか聞いたことあるよ。そんなタイトルの映画あったね」
「もう一人の自分のことで、その人に会ったら数日のうちに死ぬんだって」
何?と思ったけれど、Aは勝手に話を進めていった。
「あたしね、最近へんな夢見るんだ。夜にね、知らない道を歩いている夢。歩いてると誰か追っかけてくるんだ。女の人だと思う。ヒールの音だったし…で、すぐ後ろまで来たところで振り返るんだけれど、何かスッゴイ怖いものが居た。でも、何だか覚えてない。凄い怖いんだけれど思い出せない。そんな夢を三度も見たんだよ」
何かの暗示じゃないの?注意を怠るなとか…と返事をすると、そうかもしれないけれど」と言ってAは話を続けた。
「この前、H子が泊まりに来たんだけれど、その日も夢見た。それが三度目。朝起きてH子に夢の話したら、H子が変な顔してる。夜中にトイレに行ったら、鍵がかかってて中からあたしが返事したって。でも、ベッドに戻ったらあたし寝てるじゃん。寝ぼけたと思ってもう一度トイレに行ったら『まだ入ってるよー』って返事されたって…」
「もしかしたら、もう一人のあたしがどっかに居て、そのせいで夢見てるとか思うんだけど…」
正直、どう返答すればいいか迷った。
「でも、何かに気をつけろってことだと思うよ」という内容を話して、後は取りとめもない会話で終わった。
それから一月近く経って、Aからまた電話があった。ずいぶん沈んだ声だ。
また夢を見たのか、と聞くと「違う」と言う。
「昨日ね、会社の飲み会だったの。会社辞めるコがいて、久しぶりに2次会まで行った。その帰りね、ちょっと酔っ払ってて、うちの駅のひとつ前の○○駅で間違って降りちゃった。あり得なかったけど、いっか、酔いを覚ますために少し歩こうなんて思った…」
Aは涙声になっていた。
少しすると落ち着いたらしく、続きを話し始めた。
「人通りもなくて、気がついたら、誰か後ろを付いてきてるの。チョッと振り返ってみると、スーツ姿の男の人が居たのよ。急に酔いが醒めちゃって、途端に怖くなって」
「とにかく、誰か居るところに行かなきゃって思ってたら、200mくらい先、女の人が歩いてるのが見えたんだ。
あの女性の近くまで行けば大丈夫って、早足で近づいたんだけれど」
「…近付いてわかった。その女の人の服装、その日のあたしの服とおんなじ…髪型も。履いてるのも同じヒールだった!その場所あの夢でみた所なんだよ!!頭がガンガンして、訳分かんなくなって…そしたら女の人立ち止まっちゃった。立ち止まって、こっちを振り返ろうとしてる…」
「振り向くな、こっち振り向くなって思って、目をつぶったんだけど…顔ちょっとだけ見えた…そしたら『ギャーーーーーーッ!!』って、女の人の悲鳴が聞こえて…しばらくして気が付いたら周りには誰も居なかったんだよね。男の人も、その女の人も…」
俄かに信じられない内容だった。けれど、一月前の電話のときの話…「振り返った女の顔は、Aの顔だったの?」と思わず聞いてみた。
でも、「電話切るね」と言われて、それっきり。
その後、随分のあいだ音沙汰がなかったけれど、つい先日街中でAと出会うことができた。
なんとなく、昔の雰囲気と変わったなぁと思いながら世間話をした。
機会を伺って、あの時のことを聞いてみた。
するとアッサリと「女の人の顔?ちょっとしか見えなかったけれど、あたしの顔だったよ」と答えてくれた。
明るいトーンでAは、最後にこう付け加えてくれた。
「でね、ほら、ドッペルゲンガーの話したじゃん。あの女の人、あたしを見たから死んだんだと思うのよね」
死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?95