狸じゃけん

かれこれ30年ほど前の話だが、四国の山奥に祖父母の家があった。
祖父母も常住の家は都市にあって、その山の家は夏の山仕事時に使うくらいだった。
夏休みには家族で泊まりがけで、そこに行くのが楽しみだった。

とある夜、雨戸もしっかり閉めて2階で寝ていると、11時頃、入り口をコンコンとノックされた。
父と祖父は所用で出ていて、母親は入院中で、この家に今居るのは祖母と妹と私だけだった。
ノックが続く。
隣で寝ている祖母は動く気配もない。
ノックが続く。

「ばぁちゃん。誰か来たよ」
小さい声で言ってみると
「あれは狸じゃけん、かまわんのよ」
そう言うと、祖母は寝てしまったようだった。
私は人だったら大変なのにとやきもきしていたが、1人で降りて扉を開ける勇気はなかった。
ノックは15分ほど続いた。

こんばんは、とか、夜分ごめんなさい、とか、人間だったら声をかけるだろうから、アレはやっぱり狸だったんだろうと思う。

不可解な体験、謎な話~enigma~ 83

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