信心深い祖母

うちの祖母は、非常に信心深い人で、仏壇へお経をあげる事を毎日欠かさない。
基本的に、病気で体調を崩さない限り、ほぼ毎日――旅行で数日家をあける場合でも、旅行の日の前後に、必ずいつもの二倍くらいの時間をかけてじっくりとお経をあげる。
それくらい、徹底している。

そんな気質だからだろうか、ある日、恒例の家族旅行から帰った祖母は、その日ばかりは疲れが先行してしまい、お経をあげずに眠る事にしたそうだ。

そして、奇妙な夢を見た。

布団の中でうとうとしていると、何やらカサカサと音がする。
猫の類などは飼っていないので、ネズミでも出たのだろうかと思っていると、それは、だんだんと近づいてきて、やがて布団の中へと入ってきたそうだ。

「誰かえ?」
そう聞くと、それは驚くように布団から飛び出して遠のく。
しかし、暫く経つとまた布団の中へかさかさと入ってくる。

「誰かえ?」
呼びかけると、また遠のく。そして、また近づいてくる。そんな事を数回繰り返し、祖母は、今度はふと思い立った名前を読んでみた。

「○くんかえ?」
俺の名前だったそうだ――と、言うのも当時の俺はまだ小学生の低学年で、祖母と一緒に眠る事もままあったからだ。

今度は、それは布団を出て行かない。やっぱりそうだったのかと思い、もう一度声をかける。
「やっぱり、○くんかえ?」
すると、次の瞬間、祖母の顔の前に、からからに干からびた木乃伊のような細い腕が、ぬうっと現れたそうだ。

「思わず、目が覚めてなあ・・・直ぐに、これは仏様がお経をあげなかったから怒ってらっしゃるんや、と気づいて、夜中やったけど直ぐにお仏壇開いてお経あげたわ」
その時の事を語りながら、祖母は少し恥じるように苦笑する。

しかし、たった一回のお経を忘れただけで、祖母に悪夢で訴えるとは、ウチのご先祖も、大した器量だよなー。
祖母の話を聞きながら、俺は俺で、ぼんやりとそんな事を思ったり思わなかったりした。

ほんのりと怖い話51

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