中学の頃、ヤラセの心霊写真で小遣い稼いでる奴がいた。
まあ俺も片棒かついでたんだけど「ヤラセ」と言ったところで合成なんかのトリックでは一切無い。
要するに、仕掛け人Aが「ここだ!」と言ったところで写真を撮ると、必ず何か写っているのだ。
客が持ってきたカメラで、客に撮らせるというのがポイント。
当時の中学生の小遣い基準を考えると、相当にいい稼ぎになった。
そいつとは幼なじみ(と言ってもそんなに親しくなかった)だったんだけど小さい頃は、高架下や裏路地など妙なところに座り込んでボンヤリ遠い目をしてるおかしい奴、という印象しか無かった。
要するに、その頃からずっと「見て」いたんだろう。
成績も壊滅的に悪かった。掛け算出来ないんだから相当なもんだよ。
Aが言うには、出てくるそれは殆どの場合霊じゃないそうで、じゃあ何なのかと聞いても答えてくれない。
ただ、それは割とAの自由になると言っていた。霊は自由にならないらしい。
客と撮影に出ても、「ここ」というポイントが見つからないこともある。
そんなときに行うのが「ヤラセ」だ。Aがそれを、どこからかその場に呼ぶのだ。
これはAが疲弊するのと、また「あまり良くない」らしかったが、信用には変えられない。
客層も幅広がってたし、仕事にかけるプライドみたいなものがあったんだよなw
で、中3成りたてのゴールデンウィーク、夕方。
俺達二人は客といつものように撮影に繰り出していた。
場所は廃工場で、接客担当の俺は「死んだ工員の霊が…」とかなんとかテキトーに語っていたんだけど、Aがヤラセの符丁を送ってきた。
Aは知らない奴と一緒では集中出来ないのと集中する姿が何と言うかヤバいのでw
符丁を送ってきた時点で、俺は客と共に少しの間場所を変える決まりになっていた。
作業場から、廃工の入口、受け付けみたいなところへ移り、五分ほど…
中から絶叫が響いた。Aのものだ。
客をそこで待たせ駆けつけると、へたりこんで叫び続けるAの眼前になんだろう?真っ黒い、巨大なキノコ雲のようなものがもうもうと立ち上り、広い作業場を埋め尽くしていた。
スゴすぎるそれに俺もドン引きで呆然としていたが、まさか火事か、と思った途端、ほぼ無意識に体が動いて俺はAと客を連れ慌てて逃げ出した。
客が俺を追い越して何処かへ走り去る。それはいいとしても、Aまで途中から俺を抜いていこうとしたため、腕を掴んで一旦止まらせた。
止まらせても走ろうとする。俺も興奮していたから、あれは何か、どうしたのか、と聞くと
「父さんが死んだ」
と泣く。
確かに、その日の夕方、撮影の前、Aの父は交通事故で亡くなっていた。
携帯があれば話は早かったろう。
Aは一週間ばかり学校に来なかったが、登校してきて開口一番俺に言ったことには
「もうああいう事はやめる。ああいう物を見るのもやめる。現実を見る」
元々仲が良かったわけでもない。それに、親父が死んだとき、Aは俺みたいな馬鹿と馬鹿みたいな小遣い稼ぎに興じていたのだ。
仕方ない事とはいえ、罪悪感は拭いきれないだろう。
俺の方も罪悪感と気まずさがあって、つるむこともなくなった。
また、Aは「現実を見る」と言ったが、掛け算も出来なかったボンクラがそれからいきなり成績を上げ、一年足らずで県下一の進学校に進学するまでになった。
今まで現実見てなかったせいでボンクラだったとでも言うのだろうか?
それまでAが見続けていた、霊ではないそれの正体が結局のところよくわからないんだけど、あのキノコ雲は参った。今でも夢に出る。
今思い返してもよくわからない話でスマソ
漠然とした後悔があるんだよな。
ほんのりと怖い話57