中学の時の話
その日も梅雨の雨の中、傘を差して学校から帰宅していた。
気が付くと歩道の先から、こちらに向かって誰かが歩いて来ていた。
黒い傘に黒い長靴。白い肌着に白いモモヒキのおじさんだった。
今までその存在に全然気づかなかったけど、田んぼを見てたり考え事をしてたせいだと思ってた。
(農家の人かな?)と思いながら、二人が歩道を通れるように右側に避けて歩く。
でも、その人はこっちに向かって来ているはずなのに距離が縮まらない。
(後ろ向きに歩いてる……?)
その農家の人と思しき人は、私が歩く速度に合わせるように、後ろ向きに歩いていた。
気味が悪くなって、田んぼを覗き込む振りをして立ち止まった。
悪い予感が当たって、彼も同じ距離を保って止まっていた。
人間じゃ無い、っていうのは何故か直感で解ってた。
ずっと立ち止まっていたら街灯の無い農道は真っ暗になってしまう。
真っ暗な中でおじさんと向かい合うのは更に怖かった。
私は車が来ていないことを確認して、反対車線の歩道に移動することにした。
もしかしたらおじさんもついてくるかも、という考えもあったが、おじさんは立ち止まったままだった。
ほっとしながら、反対車線を歩いて家に向かう。
気が付くとおじさんが居ない。
(消えた?)と安堵しながら見回すと、道を挟んだ真横に移動していた。
さっきまで私が歩いていた場所。しかも私が歩くと同じように後ろ向きに歩く。
道を挟んで並行して歩いているのだ。
私の家はおじさんが歩いている歩道の方にある。
つまり、いつかはおじさんの歩いている歩道に行かなくてはならない。
(いきなり走れば不意をつけるかも。そのまま家に逃げ込もう!)
そう思った私は、家の近くまでおじさんと並行歩行したところで、ダッシュで道を渡った。
垂直に渡るとおじさんにぶち当たるので、少し斜め前に走る。
怖いのでおじさんの方は見なかった。
縁石をジャンプで乗り越えておじさんのいる歩道に入る。
『待~~~~~~てよ~~~~~~~~~!』
男の声が聞こえた。震えてエコーが掛かったみたいな声だった。
横目で見たら、後ろ向きに(私の方に背中を向けた状態)で走ってきてる。
怖くて声も出なかった。傘を捨ててとにかく走って逃げる。後ろは振り向かなかった。
家の敷地に入って引き戸を開けて家に飛び込んだ。
「何の音ー?」と気の抜けた声で母が出て来た。
後ろを振り返ると、うちの塀の向こうに黒い傘の先が見えたような気がした。
後から母に聞くと、私が開け放った玄関の外には誰も居なかったらしい。
玄関を開けるまで、真後ろに気配を感じてたのに。
とにかく、田舎で玄関の鍵を掛ける習慣が無かったことと、引き戸で開けやすかった
ことに感謝したい…。
死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?83