山の使い

ばあちゃんが経験した話。

昔、じいちゃんが少し若い頃、山仕事が終わって軽トラでの帰り道。
まぁ今よりは若かったし早く家帰って酒飲みたかったらしくてさ、結構無茶な運転してたらしいんだ。
それで猪を轢いちゃったんだよ。

もちろん車はボコボコ。あんまり大きくない猪だったから、猪はふっ飛んで気絶。
ぶつかった衝撃も何のその、産まれてから生粋の山っ子のじいちゃんはすかさず鉈を出して『ご想像にお任せします』したわけだ。

それでボロボロになった軽トラの荷台に猪積んで、意気揚々と家に帰ったんだけど、家の庭にはすでに肉切り包丁と新聞紙なんかの、所謂捌く準備が万端だった。
携帯なんかあるわけなく、じいちゃんもなんでや?と首を傾げてると、婆ちゃんが言うわけよ。

夕方、庭にそれは大きな猪が来て穴を掘りに来た。
ひとしきり穴を掘った後、何事かと見てた私をじっと見つめて一声高く鳴いて山に帰っていった。
それはそれは大きな猪だったから、きっと山の使いに違いない。
だから、今日はあんたが狸かなんか持って帰って来ると思ったから用意しといたんだ。

じいちゃんもこれに驚く、訳もなく、後は二人で不思議なこともあるもんだとおいしく猪を食べたそうな。
でも、それからうちの家は、食べた動物の供養は今でもその穴の付近にしてるんだよ。
信心(?)深いのか深くないのか。

山にまつわる怖い話62

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