私の祖父は泳ぎが上手い。よく一緒に山の川で遊んだ。
いつものように対岸まで泳いで、元の岸へ戻ろうとした時のこと。
上流から何か泥の塊のようなものが流れてきた。
それはあっという間に祖父を取り囲むと、泳いでいた祖父の頭が「とぷん」と消えた。
私がハラハラしていると、すぐに祖父が顔を出したのでホッとした。
岸に上がると祖父はやけに疲れた顔をし、口数も少なかった。
祖父の横腹には手の痕のような痣ができていた。
次の日、外で遊んでいると、田んぼの隅に妙なものを見つけた。
泥まみれのビニールのようなものがグチャグチャになって潰れていた。
気になって祖父に「あれは何?」と尋ねると、
「河童も人間様に負ければ、ああなるということだ」
と言っただけで、あとは何も教えてくれなかった。
そう言えば母に「川で遊んで水を濁すと、河童が怒って襲ってくる」と聞いたことがある。
もしかすると、祖父はあの時水の中で、河童と戦って打ち負かしていたのだろうか――。
そのグチャグチャしたものは、太陽の光で徐々に溶け、昼ごろにはすっかりなくなっていた。
山にまつわる怖い話62
コメント
恐ろしい
川の中で河童に勝てる人間なんて恐ろしすぎる