双眼鏡から見えたもの

Aさんはバードウォッチングが趣味で、その日も車で近くの山へ出向いていた。
早朝の森で鳥を観察していると、一瞬、双眼鏡越しに何か見慣れないものが見えた。

肉眼でそのあたりを見るが、距離のせいか特に何も見つからない。もう一度双眼鏡を覗いたAさんは戦慄した。
苔の塊に人間の脚が生えた得体の知れないものが、不器用そうに歩く姿がレンズ越しに見えた。
苔の塊は頭部と腕を削ぎ落とした上半身の形、脚は蒼白く、泥で汚れていた。

震えながらも見入ってしまっていたAさんだったが、あることに気付き急いで逃げだし、それ以来その山には行かなくなった。
その得体の知れない何かは、ゆっくりと覚束ない足取りではあったが、間違いなくAさんを目指していたという。

山にまつわる怖い話63

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