子供の頃、毎年夏休みに入るとおじいちゃんの家に泊まりに行ってた。
おじいちゃんの家は島根のすごい山の中で、周りの集落はほとんど親戚みたいな感じ。
そこには同い年くらいの従兄弟が何人もいて、いつもみんなで一日中遊んでた。
俺が小6の年、従兄弟達と缶けりと鬼ごっこが混ざったようなルールの陣取り遊びをしていた。
おじいちゃんの家の敷地は馬鹿みたいに広く隠れるところはたくさんあった。
俺は物陰で2つ下の信二と、俺が先に飛び出しておとりになり、その間に信二が相手の陣地を取る作戦を立てた。
そして俺は大声を上げながら敵陣に向かって突進した。
陣地を守っていた敵が俺を捕まえようとして走り出したのを見て、信二が敵陣に突進したが、寸前のところで敵に気付かれ、信二はUターンして逃げ出した。
敵の従兄弟の方が逃げる信二より数段脚が早く、信二がすぐ近くに建っていた
蔵の裏に逃げ込もうとした時には捕まる寸前で、二人はほぼ同時に蔵の裏へ消えていった。
その隙に俺は楽々と相手陣地を取ることができた。
俺が相手陣地に立って大声で歓声を上げると、隠れていたいとこ達がぞろぞろと出てきた。
蔵の後ろから信二を追いかけていた従兄弟も出てきたが、信二はいなかった。
「信二は?」と俺が聞くと、その従兄弟はぽかんとした顔で、「消えちゃった。」と答えた。
その従兄弟が言うには、手を伸ばせば届くくらいの目の前を走っていた信二が、蔵の角を曲がったとたんいなくなってしまったというんだ。
俺も二人が蔵の裏に走って行くのは見ていたので、俺達はぞろぞろと蔵の裏まで行ってみたが、信二はどこにもいなかった。
俺達が隠れるところはだいたい決まってたんで、いろいろ探してみたんだけど結局信二は見つからなかった。
日が暮れ始める頃になると大人達もだんだん騒ぎ出して、集落のみんなが懐中電灯を持って裏山とか近所を捜索し始めた。
俺達はおじいちゃんの家に集められ、留守番をさせられた。
重苦しい空気の中、従兄弟が、「見つかるはずないよ。消えちゃったんだよ。」といつまでも泣きながら言っていた。
その後警察がやってきて事情を聞かれ、俺達はあるがままに答えた。
警察は怪訝な顔をしていた。
その日の夜中、どうしても我慢できずに便所に起きた。
広間からは明かりがもれていて大人たちの話し声が小さく聞こえていた。
ちょっと安心して便所で用を足していると、静けさの中に何だか信二の声が聞こえるような気がしてきた。
俺の心臓が鼓動もだんだん大きくなってきて、用を足し終えるころには鼓膜の横の血管のドクンドクンという音の合間に、はっきりと「助けて!」という信二の声が俺には聞こえていた。
俺は絞り出すように信二の名前を呼んだ、ような気がする。
すると信二は「誰?見えないよ、ここはどこなの?」と答えた。
声はまるで四方の壁から聞こえてくるようだった。
多分、本当は全て恐怖からくる俺の頭の中での想像の会話だったのかもしれない。
便所を出た俺はその後朝まで大人と居てもらった。
翌日もみんな総出で古い井戸や汲み取り便所の中まで(蔵の中はもちろん)
探したが、結局信二は見つからなかった。
警察は不審者の目撃情報なんかを集めていて、誘拐と事故の両方で調べていた。
俺達の意見は当然ながら無視された。
俺は予定より早く東京に帰ることになった。
帰る日におじいちゃん家の縁側から庭を見ていたら、おじいちゃんが飼ってた犬が、尻尾を丸めておびえたように蔵の壁に向かって吼えながら、気が狂ったように下の土を掘っていた。
その後も犬の様子があまりにもおかしいので、その蔵は解体され、蔵のあったまわりの土も1mくらいの深さに掘って調べてみたが、何も出なかったらしい。
翌年俺は中学生になり、夏休みにおじいちゃんの家に泊まりにいくのはやめた。
信二の消息は不明のままだ。
もう10年前の話だけど、いまだに信二はどこか別の次元で生きていて、帰れずにさまよっているような気がする。
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