今からする話は、うちのおばぁちゃんが昔体験した事です。
あらかじめ言っておきますが多少セリフに脚色をつけていますがすべて実話です。
蝉がうるさく鳴き風鈴が心地よく鳴る中学三年の夏休み。
周りは受験勉強だの家族旅行だので遊ぶ友達もいなかった僕は何もせず、まったりと家でかき氷を食べてました。
両親は仕事で家は僕とおばぁちゃんだけです。
僕はふと庭を見るとおばぁちゃんが松の木の下でイスに座り心地よく風にあたっていました。
たまには、おばぁちゃんと話をしようと僕もイスを持ち出し隣に座り
「ねぇ、ばぁちゃん。昔話かなんかない?」
と言いました。
おばぁちゃんはニッコリ笑って
「こんな老いぼれの話なんか聞いても楽しくないわよ(笑)」
と言いましたが暇な僕はそれでもいいと言ってねだりました。
おばぁちゃんは少し困った顔をして、
「じゃあ、ちょっと暑いから寒くなる話しようかねぇ」
キター!(゚∀゚)夏はやっぱり怖い話!僕はワクワクしながらおばぁちゃんの話に耳を傾けました。
時代は大正末。五人姉弟の長女で産まれた、私は一番下の弟をおぶさりながら家の家事を手伝い学校を行ってました。
母は牛の世話や畑仕事に営んでおり、父は村の電気を起こす機械を管理しておりました。
父はとにかく手先が起用な人で村の人がよく壊れた家具を直してくれだの、家の屋根に穴あいたからふさいでくれだの毎日のように頼みにきてました。
そんな頼りになる父は私達姉弟の憧れであり最高の父でした。
私も女学校を卒業して、すぐに父のコネで大好きな父と同じ「○○電力」に勤めましたが、お見合いの話がきて結婚してすぐに大阪まで嫁いで行ってました。
都会だったし知らない土地での生活や父や母が恋しいのもあり寂しくてよく手紙を書いたのを覚えてます。
丁度、生活にもなれた頃にこんな夢を見ました。
父が私の名前を呼んでいるので振り返ると家の前で杖をついて立っているのです。
「お父ちゃんどうしたの?」と言うとニッコリ笑って何処かへ行く夢です。
そんな夢を立て続けに何日も見ました。
そんなある日悲しい手紙が来ました。
大雨が降り山の土がモロくなり父が土砂崩れに巻き込まれ亡くなったらしいです。
悲しくて悲しくて毎日泣いていました。
夫も戦争に行っていたせいか余計に落ち込んでいました。
そしてあの夢は私にさよならを言いに来たんだと思いました。
私は葬式に行くために実家に帰り父の死を確認すると「本当に死んだんだわ」と、改めて思い大泣きした記憶があります。
母と弟と妹達がせっかくだからゆっくりして帰れば?と言ってくれ二、三日泊まって帰る事にしました。
久々に私は姉弟仲良く皆でお昼ご飯を食べながら雑談していました。
母はその日夕方には帰ると言い出かけて行きました。
弟が
「丁度、この時間に父ちゃん帰ってきたよな」
と言い出したのをきっかけに皆、黙り込んでしまい重い空気になりました。
そんな時に外から
「カツーン。カツーン」
と、聴こえてきます。
妹が真っ青な顔で「父ちゃんの杖の音!」と言いました。
私が嫁いでから足を悪くして杖をつくようになったらしいのです。
そういえば夢でも杖ついてたなとその時気づきました。
でも、今はそれよりこの杖の音が気になります。
弟は窓を開けて外を見渡しましたが猫一匹いないと言うのです。
実家は田舎なもんですから遠くの方までよく見渡せます。
なのに「誰もいない」と震えながら言うんです。
私も皆気味が悪くなり一様玄関が開かないようにさえ木で止めて一言も喋らず外の音を気にしていました。
「カツーン!カツーン!」
だんだん、その杖の音が玄関まで近づいてくるにつれ皆、不満を隠し切れませんでした。
そしてついに玄関で音が止まりました。
「ガタッ・・ガタガタ!」
あきらかに玄関の戸を開けようとする音。
妹は泣きながら「父ちゃん死んだの分かってないのよ」と言って隅で固まってました。
弟も冷や汗を流しながら玄関を気にしてます。
そして窓から玄関外を覗きましたが玄関外には誰もいないと言うのです。
でも玄関の戸を開けようとする音はおさまるどころか激しくなります。
弟は我慢の限界か「誰じゃ!イタズラならやめぃ!」と大声で叫びました。
すると玄関の音はぴたりと止みました。
ほっとするのはつかの間、「バン!バン!」「ガタ!ガタ」次は私達のいる居間の、すり硝子の窓を叩く音と開けようとする音。
窓には誰もうつってはいません。
皆、恐怖におびえています。
「バン!・・・バン!」
妹は怖くてワァーワァー叫んでました。そして・・
「オーイ・・・トシエ・・・ト・・シ・・オーイ」
私の名前を呼んでいる!お父ちゃん!
私は涙がポロポロ出ました。
窓を開けようとすると弟が「いかん!開けちゃいかんぞ!姉ちゃん連れていかれるぞ!」と必死に私を押さえました。
「お父ちゃんが呼んでる!離せ!」
私は叫びながら弟を突き放そうとしましたが力のある弟には及ばず後ろへ投げ出されてしまいました。
「姉ちゃんしっかりせぇ!父ちゃんはもうおらんのじゃ!父ちゃんは死んだんじゃ!」
弟は必死に私に訴えました。
私は我に返り泣きながら窓に向かって言いました。
「お父ちゃんはもう死んだんよ。だからトシエはお父ちゃんにはもう会えないの。ごめんね」
すると窓を叩く音は止み、しばらくして
「カツーン。カツーン」
と、杖をつく音が聴こえだんだん音も小さくなりました。
その音は寂しく泣いているように聴こえました。
「父ちゃん天国に帰ったんじゃ」
弟は畳に涙をポロポロ落としそう言いました。
母が帰宅し、その事を話すと泣きながら「そうけ、そうけ」と、うなずき私に
「お父ちゃんはあんたに会いたい会いたい言うてたからね。 お父ちゃんあんたに会いたかったんだろねぇ。」
そう言った母の優しそうな顔は今でも思いだします。
それから毎年、父の命日には大好きだったお酒をお墓に供え、あれから息子を産んだ私は「トシエが来たよ。お父ちゃん。 孫も来たんだよ」と成長する息子を必ず見せに行きました。
おしまい。
僕はポカーンと聞いていましたが、はっ!と、おばあちゃんの顔を見たら少し目に涙がたまっていました。
それを見た僕もウルウル涙が出てきました。
おばあちゃんはこう言います。
「おばぁちゃんも天国行っちゃったらユウ君に会いにくるかもしれないけど窓開けちゃダメよ(笑)」
「来ていいよ!開けちゃうかもしれないけど」
そう言いながら僕とおばぁちゃんは家の中へ入っていきました。
とにかく蝉がうるさく風が気持ちいい日でした。
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