電報の配達

親父の家は田舎で郵便局長をやっていた。
なので、中学生の頃は夜中に電報の配達とか、しょっちゅう行かされてたわけだ。
その日も午前0時ちょっと前に叩き起こされて、隣の部落の家までチャリで電報を届けに行った。

未舗装の渓谷沿いの道を必死に走っていると、先の方の崖っぷちに女性が川を見つめながら立っていた。
崖から下の河原まで20m位高さがあるから、危ないなぁ、大丈夫かなぁと思ったそうだ。
通過するときにチラリと見てみると、袖のない真っ白な服を着た、髪の長い女性で美人な感じだったらしい。

電報の配達は一刻を争うので、そのまま声をかけずに配達先に向かった。
届け終わってまた同じ道を戻って来るときには、もうその女性は居なかったそうだ。
翌朝、夕べ届けた電報が配達先のご主人が出張先で急死したことを知らせる電報だったと、母親から聞いた。

それからしばらくして、また夜中に電報を届けに行った。
今度は南の方の二つ先の部落で、片道30分はかかる。
親父は憂鬱になりながら、渓谷沿いの道を走った。
ふと、先の方に女性が立っているのが見えた。
いつかの夜中に見た女性を思い出しながら近づくと、やっぱりその女性は長い髪の美人で、川をじっと見つめていた。

通過するときにやっぱり気になって、ちらりと見ると、着ている服は袖のない服だったが、少しだけ灰色がかって見えたそうだ。その時も、帰り道ではその女性は既に居なかった。
翌朝、届けた電報はやっぱり人の急死を伝える物だったと知った。

同じようなことが二度重なり、親父は怖くなったそうだ。
そんな矢先、三日もしないうちにまた電報を届ける事になった。
今度は早朝の、明るくなりかけの時だった。
またあの女性に逢うんじゃないかと不安に思いながら、親父は渓谷沿いを走った。
しかし女性は居ない。
安心してすっかり辺りが明るくなった道を戻って来るとき、やっぱり女性が立っているのが見えた。

相変わらず川を向いているのは一緒だが、今度は黒に近い服を着ていた。
親父は怖くなって、チャリを必死にこいで一気に通過しようとした。
女性の脇を通る瞬間、やっぱり気になって横目で見てしまった。
と、女性は親父の方を向いていて、うつろな表情と目が合ってしまった。
その顔は何ともいえない、生きている人とは思えない顔だったらしい。

それから親父は配達が怖くなって、しばらく弟に代わってもらったらしい。
渓谷沿いの道は一本しかなく、別な道を通るわけにはいかなかったそうだ。
幸い弟はそんな女性は見ずに済んだそうだ。

……懐かしそうに一通り話し終わった後、親父はこう付け加えた。

「不思議に思うんだが、外灯もない真っ暗な道で、何であんなにはっきり見えたんだろうな。それに、最初は青白いっていうほどの服の色だった。よく覚えたないが、手も青白かった気がする。同じ人かどうかは、断言できないが、目が合ったときの顔は今でも忘れられないし、その時の顔は、土気色っていうのか? 濁った肌色だった。周りが明るかったせいかな」

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