貨物用の波止場

上のヨシマサに前に聞いた話なんだけど、このヨシマサ就職に大阪出ていいおっさんになった。
ガキの頃に覚えた釣りは趣味として今でも続けていて、大阪でもちょくちょく夜釣りに出かけるんだと。

ある金曜日の夜、仕事も終わってさあ今日は夜通し釣るぞ~つって北港へ出かけた。
行き先は彼取って置きの人気のない貨物用の波止場。
昼は運搬車両や港湾作業者の往来が激しいこの場所も、夜になると灯りを探すのも困難なほどのひっそり。
でもそれだけにチヌやキスが釣れるとあって、彼は誰にも教えず一人の楽しみとして通っていたのだとか。

さて、その日も夜の2時頃港に着いて糸を垂れる。
遠くに光るネオンを見ながらのんびり夜釣り。
イヤホンでラジオを聴き、缶ビールをちびちびやって至福のひと時を楽しんでいた。
しかし今日に限ってアタリはない。
まあこんな日もあるかなと半分諦め加減で長丁場を楽しんでいた。

小一時間も経った頃、「おーい、おーい」と呼ぶ声が聞こえる。
時間にして夜中3時近く。
何だろう?今時分人いるのか?と辺りを見回すも誰もいない。
元より作業の終了した灯りのない暗い港では視界も悪い。
気には留めながらも釣りを続けていると「おーい、おーい」と今度ははっきりと聞こえた。
堤防の先だ、そう思って数十メーター先に目を凝らすとかすかな人影が手を大きく振りながら呼んでいる。

何事ぞ?と思いながら遠い堤防の先を見やる。
黒い人影が相変わらず大きく手を振っていて呼んでいる。
腰を上げ堤防の先を目指して歩き出すと「おーい、携帯持ってるか?あとタモ!タモも!」と。
携帯はポッケに入ってる。
じゃあタモをと掴んで堤防の先目指して歩きだすこと数分、帽子をかぶりまるまるとした赤ら顔の中年のおっさんがニコニコと待っていた。

「あんちゃん電話もっとるか?」「どうしました?」「いや、あれな」
おっさんが堤防の先から暗い水面を指差す、するとすぐ手の届きそうな位置にうつむけに浮かぶ男があった。
「わっ!」驚くヨシマサ。
「あんちゃんタモでな」
つっておっさんがタモを誘導、その端をヨシマサに握らせ
「よっしゃしっかりそのままやで。あんちゃん警察に電話して」
ヨシマサが110番。

すいません今北港なんですけど、水死体を発見しました。
はい、ええ。場所はこの辺で。
タモで引っ掛けてるんで流されないうちに急いで着てください、と。

電話を切ると辺りは静寂。さっきまで隣にいたはずのおっさんが居ない。
ええ~おっさんないわ~このタイミングで帰るとか~、灯りのない堤防の先、死体を繋ぎとめたタモを片手に警察を待つこと大体15分。
懐中電灯の灯りを灯しながら3人のお巡りさん登場。
いや~難儀でしたね。
お一人で?いえ、さっきまで帽子かぶったおっさん一緒だったんですけどその辺おりませんでした?いや~来る途中は誰もいませんでしたよと若い警官。

帽子かぶった言うんはあの人やろ、老警官水面に浮かぶ仏さんを指差す。
ヨシマサ、え?っとなりそこで初めて仏さんをまじまじと見た。
そうだ、あの帽子だ・・・。ぶくぶくと膨らんではいるが元の背丈体型もあのおっさんと同じくらい・・・。
警官がブルーシートを敷いて3人がかりで上げたおっさんの死体は腐って膨らんでフナ虫がたかり顔を見ることはとても出来なかったけど、帽子とベストはさっきのおっさんのものだった。

おっさん、自分やったんかい。頼むで、何か恩返ししてや~と思ったそうだが特にそれらしいことは無かった、と言うとりました。
彼は翌週も同じ場所へ釣りに出かけてそうで。
こうやって見るとほんのりも怖くないですねwお目汚し失礼いたしました。

ほんのりと怖い話79

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