小学生の頃の話です。
ある日友人数人と私の家の周りで遊んでいた所、隠れんぼをしようということになり、N君が鬼になりました。
私はとっておきの隠れ場所を知っていて、そこに隠れる事にしました。
そのとっておきの場所とは、田んぼの土手にあった、古い防空壕です。
そこは土を掘って、組み木で補強しただけの単純な作りで、親からも入っちゃいけないと言われていたのですが、私はその中に蝋燭や漫画本等を持ち込んで、秘密基地のようなものをつくっていました。
古いもののせいか、入り口付近は崩れかかっていて、子供の私がしゃがみこまなければ入れないほどでした。
入り口から2メートルほど進んだあたりに畳二畳分ほどの小部屋があり、そこに蝋燭や漫画を持ち込んでありました。
なんとか中に入った私は、蝋燭に火をつけると、漫画をパラパラ読んでいました。
防空壕の中は土が踏み固められており、夏でも涼しくひんやりとした土の感触が心地よかった記憶があります。
しばらくすると、遠くでN君の声がしました。
「おーいもう降参だからでておいでー」
私は(勝った)と思い、蝋燭を吹き消し防空壕から出ようとしました。
その時いきなりドサドサドサッという音がして、背中に思いものがのし掛かってくるような感覚に襲われました。
一瞬なにが起こったか分からずパニックになりました。
入り口から1メートルほどのあたりでしょうか。
私の体は土砂に埋まり、完全に身動きが取れなくなっていました。
これはヤバイ。そう思った私は力の限り声を出しました。
「助けてくれーー助けてくれーー助けてーーー」
恐怖で、もう言葉とも悲鳴ともつかぬ声で狂ったように叫んでいました。
しかしいくら叫んでも、聞こえるのは私の声だけで、防空壕の中はシーンと静まりかえっていました。
いくら叫んでも外へ聞こえている様子が無いので、友人が近くの大人を呼んできてくれる事に期待して、静かに待つことにしました。
暗闇と土砂の重圧の恐怖は不思議と感じなくなっていました。
それよりも息が苦しくなってきていて、子供心に「しんじゃうのかなぁ」とか思っていました。
どのくらい時間が経ったでしょうか。
私はふと、あることに気づきました。
それまでは私の微かな吐息と、体を動かそうとして土砂が崩れるパラパラという音しか聞こえていなかったのですが、明らかにそれらの音とは違う音が聞こえているのです。
耳を澄ましてみると、子供の声のようでした。
「もういいかーい? もういいかーい? もういいかーい?」
確かにそう言っていました。それも、一人の声ではなく、
たくさんの子供たちが一斉に言っているようでした。
「もういいかーい? もういいかーい?」
声はしばらく続いていたのですが、ある瞬間にピタっと止まりました。
私が頭の中で「もういいよー」と呟いた時です。
すると今度は私の足を誰かが触っています。
いえ、足だけではありません。体、腕、顔・・
私の全身を、ひんやりとした手のようなものが、手探りするように私の体をぺたぺたと触っているのです。
しかもその手の数はどんどん増えていくようでした。
さすがにもの凄い恐怖を覚え、めちゃくちゃに悲鳴をあげていたと思います。
わたしが叫び続けている間にも手の数はどんどん増えて、しかも私を防空壕の中のほうへひきずろうとしているようでした。
その手は私を土砂の中からズボっと引き抜くと、私の体から離れていったようでした。
そして私の耳元で、こう囁いたのです。
「みぃつけた!」
私はそこで気を失ってしまったようでした。
気がつくと私は自分の家の居間にいました。
周りには両親と祖父母が心配そうに私の顔をのぞき込んでいました。
あの防空壕の中で、体中に真っ赤な手形がついた私が倒れていたそうです。
いくら待っても私が見つからないので、友人が親に知らせてくれたようでした。
私はこっぴどく怒られたのですが、一つ不可解な点がありました。
入り口が崩れて出られなくなっていた事を両親に説明したのですが、両親は崩れてなどいなかったと言うのです。
確かにあの防空壕の入り口が崩れて、私は生き埋めになったはずでした。
次の日、それを確認しに防空壕に行ったのですが、両親の言葉どうり入り口はちゃんと開いており、まるで私を誘い込んでいるかのようでした。
それから二度とその防空壕には近づきませんでした。
後になって聞いたのですが、私が防空壕だと思っていた穴は、戦時中、軍の搾取で食料が無くなっていた時、口減らしのために子供をあの穴にいれて閉じこめ、餓死させていたそうです。
数人の子供をあの穴へ入れ、一ヶ月ほど放置して死体を運び出し、また子供を入れて・・・そんな事が繰り返されていたそうです。
私の事故があったからなのかは分かりませんが、今では完全にあの穴はふさがれているそうです。
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コメント
戦時中って割と悠長なんやね