昔、病院で不思議体験をしたんでそのときのことを書いてみるよ。
あれは大学4年のときのことだけど、就職も決まった最後の冬休みにスキーに行って、上級コースで転倒してコース脇のネットの支柱に突っ込んだ。
そのときはたいしたことはないと思たんだが、家に帰ってから血尿が出るんだな。
それであわてて病院に行ったら国立大の付属病院を紹介されてそこで即日入院となった。
腎臓かその周辺の組織が損傷している可能性が高いということで、安静にしながら詳しい検査をして、場合によっては手術で縫合するか、
最悪の場合は腎臓摘出もあるという大事になってしまった。
とはいっても寝たきりというわけではなくトイレにはひとりで行けたし、痛みもほとんどないので、ヒマをもてあましたのと不安もあって夜眠れなくなって、毎日2時過ぎまでイヤホンでラジオの深夜放送を聞くようにしていた。
入院から1週間くらいたった頃だったと思う 時刻は午前1時半過ぎ。
タバコを吸ってから寝ようと思って、当時はまだあった1階のロビー横の喫煙室に点滴の車?を押して6階の外科病棟からエレベーターで下りた。
大きな病院なのでそんな時間でも人に会わないことはないんだな。
自分と同じように眠れない入院患者や夜間シフトの医師や看護師だれかれかとすれ違う。
ところがその夜は喫煙所には自分以外に誰もおらず外で雨が降っているのが見える。
味気なく感じて早々に病室に戻ろうとしたら、長い廊下の横から自分の前に車いすを推した看護師が出てきて、その姿に違和感を感じた。
服装がその病院の見慣れたものではなく、白衣ではあるけど非常に古くさい感じがする。
そして車いすに乗ってるのは小さな女の子のようだ。
その人たちが先にエレベーターに乗り自分が後に続いた 他には誰もいない。
明るいエレベーターの照明で見ても、やっぱり車いすから何から時代がかって見える。
女の子は4歳くらいで綿入れを着て目の下まで毛布を引き被ってて表情はわからない。
看護師は30代くらいで硬い顔をして前を向いたままこちらを見ようともしないんだ。
看護師が手を引っ込めたあと自分が6階のボタンを押して、上の現在階を示す電光掲示を見ていたら1・2・3・階ときたところでエレベーターがガクンと揺れた自分はあわてて点滴の車につかまったが、それごと滑ってエレベーターの壁にドシンとぶつかった。
電光掲示は緑なんだが、そのときは4という数字が赤く点滅しているのが目に入った。
エレベーターの扉が開いて、揺れもなにもなかったというように看護師が女の子の車いすを押して出ようとしていたが、えっと思った。
普通の階はエレベーターを出てすぐ看護師室があるんで明るいんだけど、その階はほとんど真っ暗で、白い壁の角が目の前にある。
エレベーターからの光で壁に字が縦書きされているのが見え、そこには「陸軍 検疫病院 四」とあった。
扉が閉まる間際に看護師が車いすの向きを変え、そのときに女の子の毛布がはだけて顔が見えた。
見えたのは右目だけだが、その目は異様に大きくまぶたがないように思えた。
日本人の顔だちではなかった 女の子が動くとさらに毛布がめくれ、口を開け歯をむき出しにして「ギイイイイ ○×▽□!!」と外国の言葉を叫んだときやっと扉が閉まった。
まもなく6階について看護師室が見え、人の気配で心強い気分になってきたので、それでもう一度エレベーターでさっきの場所を見ようと思ったが、操作盤に4Fがないのはわかっていた。
5階を見ても、3階に降りてもさっきの場所ではなかった。
次の日の朝若い看護婦が検温に来たときに、昨夜の話をかいつまんでしたんだが、その子はまったく要領を得ない感じで
「えー、でも4階なんて最初からないんですよ。だけど帝国病院の話は聞いたことがある・・・ たしかここはその跡地に建ってるはず ・・・ちょっとわかんないけど、作り話じゃないんですか」
と笑いながら言うので「んなことはねーよ」と自分がやや気色ばむと「じゃあ後でベテランの人に聞いてみますね」と言って次に回っていった。
昼食後すぐにベテランの看護師が来て話を聞かせてほしいといってきたので、昨夜の出来事をもう一回話した看護師は馬鹿にした様子もなく聞いていたが、自分をじっと見ると真顔で
「もう深夜動いたりしないでください。まだ血尿も止まらないし重症患者なんですよ。いいですか、もし守れないなら先生に話しておしっこの管を入れてもらいます」
そうされるともう自分で立ち歩けなくなるんで神妙に黙っていると看護師は
「それから今度4階を見ても絶対に降りないでくださいね・・・これまでも何度かあったことだけど、4階に降りたという患者さんはみな・・・亡くなってるんです」とぼそっと言った。
ほんのりと怖い話89
コメント
4階が無い病院なんてあるのか?縁起を担いだとしても無理な気が
と思って調べたら結構あるみたい 倉庫などで空き階にしてるんですね 自分の無知を謝罪します