3階の猫

一昨年身内が最期まで入院していた病院の話です。

その病院は、戦前に結核病棟として建てられたもので、山の中腹にありました。
かなり広い病院です、正面が道に面している以外は、三方が雑木林です。
西よりの駐車場に猫の餌を毎日並べる困った人がいて、敷地内は猫が数十匹徘徊していました。そこは野良猫の事、人に慣れず、病棟に入る事もなく、駐車場や雑木林、病院付属擁護学校のグランドなどで遊び回っていました。

身内は、三階の病室(個室)に入院していました。窓のすぐ外に、暖房用のスチームの配管が断熱材に包まれて通っていました。
身内の病気が進んで、あと数日もたないでしょうと云われたある日、白くて太り気味で、少し薄汚れた猫が配管の上に座ってこちらを眺めていました。

数ヶ月の入院生活で初めての経験ですが、身内は「猫は好きじゃない、なんか連れて行かれそうな気がする」と、少し嫌そうな表情を浮かべました。
その猫に餌をやろうと、ヒレカツだのチーズなどを見せてもぴくりともせず、こちらをじっと見つめています。

その後、身内がかすれた声で「ありがとう、ありがとう」と言い出しました。
かなりかすれた声で、本当にありがとうだったか、自信はないです。
そして、私の視線が少しの間身内に行った瞬間、文字通りその猫は居なくなり、身内も静かになりました。
その夜、身内は鬼籍に入りました。

昨年、父が同じ病院に入院したので、看護士に聞いたのですが、猫が三階まであがってくる話は見たことも聞いた事もないとの事です。
あの猫は、一体なんだったのだろうかと、未だに不思議に思っています。

山にまつわる怖い話42

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