2階の一室

俺は新聞の臨時配達員(臨配)っていうのをしてて、結構色々な地域を飛び回ってる。
大体は何か変わったことなんていうのはないんだが、それでもたまにおかしなこともある。
それでだ、今回は香川県の方で少し変わったことがあったから暇潰しにでも聞いてくれ。

いつも通り販売店からの依頼で出向き、着いてすぐに順路をとって当日の夕刊から配達に入った。
臨配っていうのは大体キツイ区域をやらされるんだが、今回入った区域は楽なもんだった。
多少箱物はあるけど、ほぼ平場、更に部数も大したことなくて、「これは美味しい」とか思いながら夕刊を配ったよ。

そして翌日の早朝、本番の朝刊だ。
さっさとチラシを入れて出発するかってとこで店の専業(社員)から「気を付けてね~」と声をかけられた。
新聞屋っていうのは大体運転が荒いのばかりだし、慣れてない土地での配達だから、これもよくあること。
「うぃーっす」と適当に返して俺は配達に出た。

朝刊一発目だが、普通の住宅地で街灯の灯りもある。
順路も簡単だし、先に書いたように部数も大したことがない。
順調に配達を続けて、その区域で数少ないアパートの配達に差しかかった。
3階建てで中央にある階段の左右に一室ずつある構造のアパートだ。
一室の大きさは、おそらく2DKか2Kくらいで、ベランダに面して一室につき2つの部屋がある。

そのアパートの前にバイクを止め、配達部数分の新聞を持ち、さて行くかと何気なく顔を上げ時、妙なものが目に止まった。
俺から見て右側にある2階の一室のベランダに面した2つの部屋の片方は電気が点いている。

おそらく住人がまだ起きているんだろう。
でも、もう一方の部屋には、窓枠いっぱいにでかい女の青白い顔が張り付いてたんだ。
一瞬びっくりしたが、「お前はどんだけ趣味の悪い日除け付けてんだ」とそこの住人のセンスに苦笑して、俺はそのアパートの配達を終わらせた。

それから二週間くらい配達を続け、店の人間とも打ち解けてきたから休刊日前に何人かで飲みに出かけた。
新聞屋同士が酒の席でする話っていったら大体店とか上司とか客の愚痴、あとは区域の話だな。

それで区域の話になった時、俺はあのアパートのことを思い出して、店の人間達は普通に知ってるだろうと話したんだ。
予想通り店の奴等は知っていたんだが、返ってきた答えは俺の予想と違っていた。

「あ~あれは恐いよね」、「よくあそこにあの客住んでるよな」、「俺だったら住めないわ」
「え・・・?お前ら何言ってるの?もしかしてあれってそういうのなの?」

あんたらそれはどういうことなんだと聞いたところ、次のようなことだった。

あのアパートの2階の一室は、近所じゃ有名な俗に言う曰く付きで他は家賃4万くらい?だが、その一室は1万。
俺の予想通り一室ごとの間取りは2DKだが、2階のあの一室だけは部屋が1つ使えない。

店の奴が新聞の契約に行った時に見せてもらったらしいが、外から女の顔が見えた部屋に続く襖には札がびっしり。
襖さえ開けなければ害はないから絶対に件の部屋は使わないという約束で今の住人は住んでいるとのこと。

まあ、それから一週間くらいの間、そこの店の仕事を終えるまで毎朝2階の女の顔を見続けたが、特に何事もなく終わった。
しかし、そこの住人も住人だが、店の奴等もそんなのあるなら教えといてくれとは思ったな

ほんのりと怖い話90

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