狐か狸

先週木曜日の午後6時半頃のこと。

帰宅途中に所用があり、普段は通らない県道を走っていた。自動車通勤ね。
前には黒っぽいbB、その前には軽自動車が走っていた。
bBが軽を煽るように走っていた。

センターラインは白の破線なんだかから、そんなに煽るくらいなら直線のとこで抜けばいいのに、危ねえなと思いながら、少し距離を取って走っていた。
その県道は山の麓というか、山腹の下側を走るような感じで、途中で頂上を迎え、その後はひたすら下り。
下りになったので、軽もスピードが出るだろうと思いながら走っていた。

下りの左コーナーを立ち上がって短い直線になったところで、前を走るbBが急ブレーキ。そのまま停車。自分の停車。
煽られ続けた軽がブチ切れて喧嘩が始まるのか?と思い、追い越して先に行こうとしたら、bBから人が出てきた。

あー喧嘩だこれ。構ってらんねーから追い越そうと思った矢先、対向車が来た。
対向車は自分の車とすれ違うとすぐ、待避所のようなスペースに車を止めた。
何だ何だ?加勢に現れたのか?とか思いつつ、bBと軽をゆっくり追い越す。

違った。事故だった。bBの前がぐっしゃり、軽の後ろべっこり。
軽の運転手も出てきていたが、ドア開けっ放し。邪魔。
さっきの対向車は、事故を見て心配して車を停めたらしい。
自分がこのまま通り過ぎるのは気が引けたので、事故車2台の前に停車して車を降りた。
まあ両方の運転手が出てきてるから、重傷ではないはず。一声かけたらすぐに離れようと思っていた。

対向車の人が軽の運転手(年齢不詳の女性)に声をかけたところだった。
自分も「大丈夫ですかー?」と声をかけながら近づく。
女性は、「あー、skぅtrgy!!」みたいな、何ていうか、はっきりと声は出しているのに何を言っているのか判らないことを言いながら、道路の真ん中に出てきた。

対向車の人が「危ないですよ!!」と腕を引っ張ってbBと軽の間に戻そうとする。
すると女性は、「あーひゃひゃ。ちょっとぉおそれってセクハラよーあっひゃひゃひゃ!!」と笑ってる。

女性は茶髪で服装は若い感じだが、声がババくさい。それでいて鼻にかけた媚びを売るような声で、正直きしょい。
言ってることもきしょい。最初は頭打っておかしくなってんのかなと思った。
「そうだセクハラだ!!」と声がした。見るとbBの運転手(男性)。何だこいつら?と思った。

bBのエンジンが唸りを上げる。あーラジエター割れて液漏れしてんだなと思った。
とりあえずbBのおっさんに、「エンジン切った方がいいですよ。」と声をかけた。
bBのおっさん、「うん。エンジン切ったほうがいい。」と言いつつ、ニコニコしながら棒立ち。
何だこいつ?

「いやbB、液漏れしてるみたいだし、危ないからエンジン切って下さい。」と再度言うと、「うん。エンジン切って下さい。」って。
なんかムッとしたので、「自分はあなたの車に触る気はありません。自分で切って下さい。」と言うと、おっさんはショボーンとしながらエンジンを切りに行った。

その間、対向車の人と軽の女性が話をしていた。全部は聞いていなかったが、最初のところで対向車の人が、「頭打ってませんか?」と聞いていた。
事故後なら普通に聞く事だろうけど、なんか笑いそうになった。

おっさんがエンジンを切りに背を向けてから、自分は対向車の人と軽の女性の方に向き直る。
なんか軽の女性、対向車の人と腕を組んで寄り添ってる。明らかにおかしい。知的障害者か?
あ、対向車の人は男性ね。
で、対向車の人が、「警察と、念のため救急車も呼んだ方が・・・」みたいなことを言ってた。

すると軽の女性、「呼んで~?」とおねだり。妙にムカつく。心優しい対向車の人が、多分スマホだと思うんだけど、それを取り出した。
そのときbBのおっさんが近づいてきて、「その電話で呼んで下さい。」って。
電話って言うか?と違和感を感じたが、それよりおめーが連絡しろよと思った。

対向車の人が通報を終えるまではこの場にいてやろうと思った。
その間、下りコーナーを立ち上がってちょいなので、多重事故にならんよう処理しとこうと思った。
bBのおっさんに、「三角板ありますか?」と聞くと、「三角板・・・」と言ったままきょとんとしてる。

「じゃあ発煙筒焚いて下さい。」と言うと、「発煙筒・・・」でまたきょとん。
「いいや、助手席側のドア開けて下さい。」というと、おとなしく開けに行った。
おっさんの後に続いて助手席の足下を覗くと、発煙筒が無い。やっぱダメじゃんこいつ。

軽の女性に発煙筒を出すよう言うと、判らないから見て、という。あんたがドアを開けろと行うと、ようやく対向車の人から離れた。助手席を見せてもらうと、発煙筒あった。
それを焚いてコーナーの向こうまで行って道端に置く。

戻ってきてしばらく待つと、ようやく通報終了。「両方に連絡しました?」って聞いたら、「あ、警察の方で連絡してくれるってことなんで。」と対向車の人。
「ああそうですか。じゃ、自分はこれで。」と対向車の人に会釈して車に戻ろうとしたら、bBのおっさんが「証拠だからいて下さい。」と。
それを言うなら証人だろうが。
しかもおめーが不利になる証人だぞ自分は。と思いつつ、「お二人とも重傷では無いようなので、これで失礼します。」と言って車へ。

そこに対向車の人が、「ちょっちょっとすいません!!」って小走りに駆け寄ってくる。軽の女性が続く。
「1人じゃ心細いんで、一緒にいてもらえませんか?」と言って、横に来てまた腕にまとわりつく女性を横目でちらっと見る対向車の人。哀れなり。

少しの押し問答の後、結局自分も待つことに。
15分程で警察が来て、すぐ後に救急車到着。
警察官の1人が、対向車の人と話しながら、道路の反対側へ歩いていく。
もう1人の警察官が自分に話しかけてきた。
怪我はないか、この車があなたのか、ってことを聞かれた。
自分は通りすがりの吟遊詩人で、事故の当事者ではない旨を伝えた。

警察官、怪訝な顔。自分の車まで2人で行って、警察官が車の周りを一周。ぶつけたあとが無いことを確認。
だから、自分は目撃者だって。と言うと、ではあちら(対向車の人)の単独事故ですか?2台による追突事故との連絡だったんですけど。と警察官。
は?と振り返ると、事故を起こした2台が無い。変な2人もいない。

え?何何?と慌てていると、どうやら道路の反対側で対向車の人も同じ感じ。
それからが大変だった。警察官と救急隊員とうちら2人で大揉め。いたずら電話と思ったらしい。
救急隊の方は、隊長が自分を知っていたので、この人はそんなことをする人ではないと言ってくれていたが、言いつつも納得いかない顔はしていた。

救急車はわりと早くに帰ったけど、警察官には免許証を提示したり、対向車の人と知り合いではないかと会社まで調べられた。
「このクソ寒い中、いたずらのためにわざわざ外で待ってっかよ!!」みたいにこっちもいい加減うんざりで喧嘩腰。

結局厳重注意ってことになった。
自分は最後まで悪態ついた。
「もう事故見てもほっとくかんな!!」って。
警察官はパトカーの中に入って何やらやってた。
自分は対向車の人と、狐か狸にでも化かされたんですかねー?それにしてもむかつくわーって話をして、それじゃと会釈をして別れた。

車のドアを開けようとしたとき

「あーっひゃひゃひゃ!!」

あの女の声だったと思う。笑い声が空から聞こえた。
びっくりして空を見上げたけど、真っ暗。振り返って対向車の人を見たら、対向車の人もこっちを振り返って見てた。

自分は空を指さして、ん?って感じで小首を傾げたけど、対向車の人は無視してそのまま車に乗り込んだ。
暗くて自分がよく見えなかったのか、もう関わりたくなかったのか。

いつか狐か狸を見かけたら、轢いてやろうかと思う。

ほんのりと怖い話90

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