出て行け

俺のうちは親父が地元企業に勤めていたから、生まれてから一度も引っ越しをしたことがなく、生まれた時から高校を卒業するまで18年間、同じ所に住んでいた。(大学は東京の私大だったのでそれ以降一人暮らし)

家と同じ並びで4軒ほど離れた家に、おじいさんが一人暮らしをしていた。
俺が地元を離れる時もぴんぴんしてたから、実際はそれほど年じゃない初老の人で、子ども目線だから年寄りに見えたのかも知れない。

近所づきあいはあまりしない人だけど偏屈ということもなくて、普通だった。
おじいさんの家は敷地の奥まった所に建ってて、前は小さな空き地みたいになってた。
駐車スペースみたいな感じだが、車はなかった。
あとコンクリートやアスファルトで固めてもないから、夏は雑草が伸びて、たまにおじいさんが草刈りしてた。

親からは「ご近所の人には挨拶しろ」と言われてて、おじいさんも挨拶すれば返してくれた。
でも一つだけ普通じゃないことがあった。
1ヶ月に数回の割合で、家の窓や、あるいは家の前に立って、誰もいないその空き地に向かって「出て行け」とか「出て行きなさい」と怒鳴っていることがあった。
しかもその時は一回じゃなく何度も怒鳴るし、普段はマトモで、たまに変になる人かと思ってた。

小学校の高学年にはなってたある日、学校帰りに角を曲がって、あとは家まで一直線という時、その「出て行け」と怒鳴ってるのに出くわした。
その家の前を通って4軒目が俺の家。
出くわしたことは前にもあったし、「またか。やだな」と思いつつ通り過ぎようとした。
そうしたら何故かその時だけ、あの空きスペースにたくさん人がいたんだ。
大人じゃなくて、その時の俺くらいの子どもばかり。男の子も女の子もいた。
みんな道路に背を向けて、おじいさんのほうを見て微動だにしなかった。

残念なことに、俺はその場を離れず見ていたらしいのに、子ども達がどうしたかは何故か記憶がない。
覚えているのは、おじいさんが「見えたんだろう、すまんな」と言ったこと。
もう子どもたちはどこへ行ったのかいなくなってた。
その時の会話はこんな感じ。

「あの子たちはなんですか?」
「わからない。俺も見えるだけでどうにも出来ない。ただ、ああやって強気で怒鳴りつけないと、家の中にも入ってくる」
そう言われた時、ちょっとぞわっとした。
子どもたちは別に半透明とかぼんやりではなく、その場に存在しているようにしか見えなかった。

家に帰って話したら、お袋も知ってたし、仕事から帰ってきた親父も至って普通に、「見ちゃったか。気にすんなー。この辺に住んでる人は、みんな見てるから。なんかの加減で見えたり、見えなかったりするんだけどなー」
と言ったんでびっくりした。
だからおじいさんの奇行にも見える怒鳴り声を、誰もおかしいと言わず普通に接してたんだ。

でもうちの近所も、もっと広い範囲の地域でも、いっぱい子どもが死んだ事件とかはまったく聞いたことはないし、誰もそんなことがあったと知ってる人もいない。

ほんのりと怖い話101

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コメント

  1. 匿名 より:

    こういう話大好き