ベースカバーを行う幽霊

出身高校の野球部でスタメンだった人から聞いた話です。

高校の野球グラウンドには、ベースカバーを行う幽霊がいる。
一二塁間のゴロを一塁手がキャッチし一塁側を向くと、既に誰かがベース上で捕球体勢をとっている。
一塁手がボールをトスすると、一塁上の誰かはフッと消えてしまう。当然ボールは明後日の方向に転がっていく。
端から見ると、一塁手が焦って誰もいない一塁にボールを投げてしまったように見えるようだ。

正一塁手である彼にとっては慣れたもので、捕球後はまずはゆっくり一呼吸して周りを見回すのだという。
視界にいる人数が少し多い気がしても、一塁に向かってくるのはバッターとベースカバーに来る投手のみ。
一瞬どう対処するかを落ち着いて考えたほうが的確な守備につける。
そのお蔭で守備自体は最近上達した気がするし、ここ最近は一切エラーがない。
まあ、確かに、人ならぬ誰かが居るような一塁を踏みに行くには気が引けるけど。

という話を彼が野球部の合宿でしたところ、同じような経験が他の皆にもあったそうだ。
確かに、監督は「スタメンとそれ以外の大きな差は守備力だ」といつも口酸っぱく言っている。
こういった経験を一度乗り越えて、守備につく際の心構えというか平常心みたいなものを鍛えないと、わが校のレギュラーは勝ち取れないのだろう、と皆で笑った。

ちなみに、この話をうけ、先発のエースが紅白戦や練習試合で登板が続いた際に、「キャッチャーミットが分裂して見えた」「バッターが二人に見えた」と言っていたが、さすがに「それは幻覚だ」「追い込み過ぎだ」という意見で概ね一致したようだ。

昭和中頃より甲子園出場経験がない弱小野球部の奴が何言ってんだ、という話。

ほんのりと怖い話103

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