タブー

仕事が休みになったのにどこへ行く宛もなく、怖い話をざっと読んでおりました。
大変恐ろしいし、面白かったです。
この中から幾つかが後世、「昔話」として語り継がれて行くのでしょうね。

私も一つ。長い上に、自分でもこれがどんな話なのか判っていません。
小学生の時の話です。怖いと言うか、申し訳ない話。

祖母が山のそばに済んでいたから、良く遊びに行きました。
何と言うか植物の殆どない石だらけの斜面の山で祖母の他には余り登る人も居なかったようです。

で、これは最早「山の掟」云々じゃなく、人としてやっちゃいかん気がするんですが、しかも祖母が口を酸っぱくして駄目だと言い聞かせてくれていたにも関わらず、私はある程度の高さまで駆け登った後、斜面の小石を蹴りながら降りて来る変な遊びを良くしていました。
勿論下に人が居ないのは確認してからやったし大体が人も来ない山なので、別にいいだろう、と思っていたようです。

しかし祖母が私の行為を止める言い種は、他の人と登山した際言われた
「小石を踏むな!後続の迷惑だ!」
と言った種のものとはどうも違っていた気がします。
危ない、とかではなく(勿論それも含みますが)「タブーだ」というものに近かった、ような。

で、ある日、いつものようにそんな遊びをしていると、突然走りたくなりました。
岩だらけの下り坂(子供には割と急)な斜面です。
幾ら頭の足りない子供だった私とは言え、ヤバい事は判っていたはずなのに、えらい勢いで走り出し、盛大にすっころびました。
額を縫う怪我をしてみました。当然です。

当時の私としては、その出来事自体よりも、連れて行かれた病院で麻酔もせず(脳に近かったからでしょうが……)洗浄縫合されたプチ地獄絵図のみが長く忘れられない思い出でしたが、成長した今、坂の下でへんに冷静な顔で走る私を待っていた祖母の方が気になるようになりました。

どう考えてもあの時彼女は、私ではなく、私の少し上、つまり私が走り出した地点を凝視していた気がしてならないのです。
祖母は長生きしましたが、その時の事を滅多に言う事はありませんでした。
たまに口にする時も「これで済んで良かった」みたいな言い種だったものです。

私は「二針縫うだけで済んで良かった」という事を彼女は言っているのだと思っていましたが、ある日そうなのかと問い質してみました。
祖母は、「あの時あんたが走ったから、怪我だけで済んだってことだ」というような事をぽつんと言うと、それきりどんなに聞いても、その言葉の意味を教えてくれませんでした。

成長し、山登りも少ししました。流石にあれはまずかったと心から思います。
山なんて驚く程死角が多いし。
けれど、それとは別に、あの時走った私の後ろに何がいたんだろう、とも思います。

山にまつわる怖い話8

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