来るな

山持ちの爺がいた。

秋になると独りで松茸とりにいく。
松茸がとれる場所は本人しか知らず、たとえ息子や嫁であっても、一緒に行こうとすると、「来るな、来るな」と追い払っていた。

ある日、いつものように山に行くと言ってぶらりと出て行ったきり、夜になっても帰って来ない。
事故にあったかも知れぬと、息子が青くなって町の消防に連絡。
朝になって町総出の山狩りが始まった。

夕暮れ時になって息子が、沢に滑落してズタボロになった爺を発見した。
感極まって息子が爺を引きおこすと、爺は焦点のあわない目をしていたが、それが息子だとわかると大きな声で叫んだ。

「来るな! 来るな!」

結局、一命は取りとめたが、後日、息子はこう語った。
もちろん、正気を失っていたせいなのは判っているさ。
しかし、自分の親父ながら、あのあさましい姿にはぞっとした、と。

山にまつわる怖い話9

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