泥手

小学5年生の頃の話。

合宿で八ヶ岳に出かけた。
合宿と言っても自然体験合宿みたいなもので、ドラム缶風呂に入ったりヤマブドウ狩りに行ったり、ワラビを売るほど摘んできたりというやつで相当面白かった。
合宿所の裏の斜面の下には半分沼みたいな湿地があって、そこで泥まみれになって遊ぶ事も出来た。

その日はそこで泥沼遊びをする日だったので、みんな大喜びで靴をがっぽがっぽ言わせながらアホみたいに遊んだのを覚えている。
俺はナイキのスニーカーを履いていた。
がっぽがっぽ言わせて泥沼を横切るのは凄く面白くて、何回も何回も泥沼を横切って遊んでいた。

何往復目かでくいっと足が取られて盛大に前のめりにこけた。
周りは馬鹿うけで俺は悔しはずかしで仲間のもとへ走って行こうとしたんだが、左足が何かに引っ張られているようで全く抜けなくなってしまった。

木の枝に引っかかったような感じでもなかった。
くるぶしの辺りを何かが掴んでいるような感じ。
もうほんとにどうしようもなかった。

助けを呼んで、責任者の大人の人にも引っ張ってもらって「ぐぽぉ!」ってかんじでようやく抜けた。
もの凄く気持ち悪くて俺はその場で泥沼遊びを抜けて風呂に入った。
結局、靴はそのまま沼の中に沈んでしまったらしく、後日探してもらう事にして俺達は東京へ帰った。

それから半年、その施設の管理人から宅急便が届いた。
俺の名前が書かれたナイキ。
多少色褪せしていたものの泥は全くついておらず、当時のままで戻ってきた。
ただ気になるのが添えてあった手紙に書かれた発見場所だった。

発見場所はその沼をさらった時そこで見つかったものではなく、2km合宿所を下ったところにある溜め池に浮いていたと言う。

山にまつわる怖い話14

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