昭和30年代も終わりの頃、祖母はわらび採りに山へ入った。
そのうち雨が降ってきたので、山道を足早に戻ろうとしたら、前方から女がやって来る。
その人はスカートに手提げのバッグと街中を歩くようないでたちで、それだけで充分変なのだが、傘は持っていないようだった。
すれちがいざまに祖母は女に軽く会釈したが、彼女はシカト。
そして祖母は、女が実は傘をさしていることに気づいた。
遠目ではそれに気づけなかったのは、実は傘がまったくの無色透明だったからだ。
当時は傘自体が貴重だったが、あるとしても真っ黒なコウモリ傘あるいは和傘が主流で、透明の傘なんてありえない時代だったそうだ。
「今、100円ショップとかで売っているあのビニール傘にそっくりだった」
と祖母はいう。
山にまつわる怖い話19