草刈り機の男

高校生だった時の話。俺の家はまあまあ田舎で、学校も山の上にあった。
当然、登下校の時も山道になるんだけど、途中で結構大きな墓地があって、そこから住宅地の方に階段が続いている。
そうするとやっぱり色々とアレな噂もあったり不審者がいるとかなんとかで、その階段を使う奴は少なかったんだけど、俺は特に気にしなかった。近道だし。

で、ある夏の日。朝からめちゃくちゃ暑くて、汗だくになりながら階段を登ってると、上の方から派手なエンジン音。
見ると男性が一人草刈りをしてる。
階段脇の斜面に立ちながら草刈り機(長い棒の先に丸い刃が付いてるアレ)でブインブインバリバリと作業中で、朝から大変だなとか思いながら学校に向かった。

夕方、部活のランニングでは最後にその階段を登るんだけど、その男性はまだいた。
朝見た時から8時間以上経ってるし、明らかに弱った様子で階段に座り込んでる。乱雑に刈り倒された草の中に、男性が飲んだと思われる空のペットボトルが何個も散乱していた。
働くって大変なんだなとか思いながら階段を駆け上がった。

下校時、男性はまだいた。いたけど、明らかに様子がおかしい。
遠目には草刈り機を乱暴に振りまわしてるのかと思ったけど、まずエンジン音がしないし、男性が持ってるのは草刈り機じゃなくてスコップだった。
スコップをめちゃくちゃに振りまわしてる。

もしかして熱中症とかでおかしくなったのかと思って声をかけようとした瞬間、
「あっちいけ!」
と、とんでもない大声で男性が叫んだ。
俺に言ったのかと思ったけど、男性は違う方を向いていて、俺に気付いた様子も無い。

おいおいやべえよなんだよこれと、その時点で俺は回れ右して階段を登ろうとしてたんだけど、
「あああっ!ああああっ!!」
まるで何かに気付いたみたいに、男性は叫びながら一本の木をスコップで刺し始めた。

スコップの先を何度も何度も突き刺して、木を切り倒そうとしてるんだと分かった。
小さな木だったけど、さすがにすぐ切り倒せるわけもなく、俺も最後まで見てる勇気は無くて階段を駆け上がった。
背後からは、男性の叫び声と木を削る音だけが響いていた。

次の日、おそるおそる階段を登っていくと、男性はもういなかった。
草刈り機もペットボトルも無くなっていて、きっと途中で正気に戻ったんだろうとホッとしてたら、階段にスコップが落ちてる。
しかも先端がひしゃげたみたいに潰れてた。

横を見れば、男性が切り倒そうとしていた木。立ってはいたけど、表面がほとんど削られてて、もう少しで本当に切り倒せたんじゃないかって状態。
更に、枝もほとんど折られてた。

それ以来、俺もその道を一人で歩くことはやめた。
あの男性が何を見たのか、本当に無事なのかも分からない。

何でもいいから怖い話を集めてみない?5

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