父が少年の頃、友達3~4人で、父の実家近くの山の上にある神社へ、一泊しようという事になった。
そこは牧歌的な田舎。
肝試しのニュアンスは皆無で、軽くキャンプだ!バンガローに泊まろう!というノリだったらしい。
お昼には到着し、握り飯を食べた後、今夜の寝床となる、神社の掃除をしようと、お堂の中に入るとそこには…。
床一面に散らばる長い髪の毛。黒い床が広がっていたのだった…。
でもそこは牧歌的。気味が悪いと思いつつ、掃除を済ませ、ゴミと一緒に片付けた後、そこに荷物を置き、散策や釣り、山菜採りなど、山での遊びを楽しむ内に、みんな床の髪の毛の事など忘れていた。
だって牧歌的。最初から誰も気にもしていなかったかもしれない。
遊び疲れた頃、日も傾き始め、そろそろ楽しい夕食の時間が近づく。
(俺もノってきた)
鍋にする道具と材料は、神社の中に置いてきた荷物の中にある。
全員集合し、夕食の準備に取り掛かるため、荷物のあるお堂に入った。
ガタピシの引き戸を開けると、明らかにおかしい。異様だ。
昼過ぎには綺麗にしたはずが、またしても黒の床。
長い髪の毛が床一面に散らかっている…。
いーね牧歌的。猿でも来て悪戯したのだろうという事にして、掃除はとりあえず、夕食にありつくため、一斉にリュックの蓋を開けた。
「うわっ!」
全員同時だったろう、声をあげる。
食材には手付かずの荷物の中に、びっしりと詰まった長い髪の毛…。
恐怖を余儀なくされる瞬間。
もう牧歌もぼっきも無い。
遠ざけていたモノが今、近くにあると感じる。
日が暮れた山道を、一同は危険を顧みず逃げ帰った。
「いやぁ、あれはほんとぅに気味の悪ぃ」と語る父親に、酒飲みでほら吹きの、その表情はなかった。
山にまつわる怖い話22