知り合いの話
友人と山歩きをしている時、アケビがいっぱい生っているのを見つけた。 
あんまり旨そうなので、土産にしようとそちらへ行きかけると、友人がダメだと言う。 
「そっちは十二様のもんだからな」 
じゅうにさまって何だ?と聞くと、天狗様だと言う。
「大丈夫、全部は採らないから」一歩踏出したとたん、何かが足元で弾けた。 
(えっ?!)立ち止まり、下を向くと、更にビシッともう一つ。 
小石かドングリかが、向うのアケビの方から飛んで来たようだ。 
訳が解らず顔を上げると、今度は、礫に頬を打たれた。
「ほら、止めときな」友人が苦笑している。 
諦めて踵を返し、先へ進んだ。 
あっちの山でアケビは手に入れられなかったが、まるでその代わりのように、こっちの山でむかごがどっさり採れた。
十二様の御山では、お許し無しに、落ち葉一枚持って帰る事も出来ない。 
それがお一方なのか、たくさんおられるのか、はっきりとは誰も知らない。 
ただ、不心得者が出ないよう、十二様はいつも御山を巡っておいでだという。 
先日もハンターが二人、全身泥まみれになって降りて来たよ、と友人は教えてくれた。
「してみると、飛礫で済んで良かったと思う」 
知り合いは真顔でそう語ってくれた。
山にまつわる怖い話23

コメント
山で「おーい」と声がする。
高い針葉樹の枝に「それ」はいて「久しぶりだな、〇〇」という。
こちらも、「元気かね。〇〇さま」
行かなくなって久しいが、不意に会いに行きたくなるものだ、
嘴のあり羽のある御仁に。