黒い人影

海の話です。

戦争中(太平洋戦争ねw)は、末期になると漁民も軍事物資人員の運搬や海上警戒のために徴用されました。
若い男でのみならず、初老の人間さえも村からいなくなって、漁業の継続的が困難になっていました。

戦争が終わろうとしている時期、村に不審人物が侵入しているという噂が立ちました。
夜間や日没時、早朝(といっても、漁村の朝は非常に早いのです)に、大柄の人間が海岸や段丘の原野を歩きまわっている:という目撃証言がでました。

すでに、村の沖合には、米軍の潜水艦が我が顔に出没していましたので、敵兵士が上陸しているのではないか?ということで、軍人に命令され、村人(ジジババ、女が主でしたが)で監視体制を敷きました。
といっても、武器は竹槍程度のものしかないので、敵兵士を見つけても無力だったのですが。

毎晩の監視の結果、そのようなあやしい人間が「いる」ということが判明しました。
ある日の夜明け前に、海岸段丘の上で、四名の監視隊(ジジババ)が、黒い人影が早歩きで移動しているのを発見、誰何しましたが、その人物は彼らを無視して歩き去ったと。
捕縛もできなかったし、歩くのが早くて追跡さえできなかったというのが情けなかったそうで、警察と軍人さんに、その体たらくを叱られたそうです。

さらに、数日後、別の監視隊が、同じような人影を村の共有林の近くで見つけて、度胸のある[おっかさん]が、追いすがったそうですが、彼女は、その林のなかで「たたき殺された」」」のです。

この事件に、官憲は色めき立ちました。
特高と呼ばれる警官が数名も、辺鄙な漁村に調査に来ました。
海岸は当時でも今でも一種の「防衛線」ですから、当然といえば当然なのですが。
当時は、このような事件は、絶対に口外できず、それがさらに村人の恐怖心を煽ったとのこと。

殺人については、村人間の怨恨の線でも捜査されたそうです。
結局、その怪しい人物は捕縛されることもなく、村人たちは、「特高も偉そうにしていて役に立たないな」、と噂したそうです。

灯火管制もあり、夜は暗く、そのような不審人物が徘徊している、ということで、村人たちは皆、縮み上がって毎夜を過ごしたそうです。
村人が夜出歩かなくなったので、不審人物の目撃はなくなり、終戦を迎えたそうです。

海にまつわる怖い話・不思議な話19

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