流れ着いた船

海の話です。

戦中生まれの私が幼少のころ、祖父より聞いた話です。
その祖父は、さらに彼の祖父が話してくれた、といっていましたから、そうとう昔の話だと思います。

ひなびた漁村では、昔から、その村行きに流れ着いた漂着物は、その村の所有物になるというのがならわしでした。
ある日、嵐もなく、凪の日にの朝に、大きな帆船が村の沖に流れ着いたそうです。
帆は降ろされていて、動かないので、村の人々は、手漕ぎの小舟で船に近づいて、声をかけましたが、何の反応もない。
しかし、投錨されていたそうで、船は潮に流される心配ありませんでした。

皆が乗り移ってみると、人がいません。
時間的に、その日の朝より前に、その船が沖に流れ着いて錨をおろして停泊しているのですから、無人ということが不思議だったそうです。
乗員がボートで自分たちの村に上陸したのではないか?と村人は心配したのですが、ボートは、全てその船に装備されたままでした。

村人たちは、深く考えずに、なにか金目の物は無いかと、船内を捜索しはじめました。
船は外装内装ともに傷んでおらず、良く手入れして使われていた痕跡があります。
小麦や米、干し肉などの食料も豊富にありました。
火薬もあったそうです。
しかし、大砲や銃などの武器はない。

皆は、よろこんで、物資を小舟で村に運び込んで、その日の夜はお祭り騒ぎだったそうです。
しかし、次の日の朝、船は跡形もなく消え失せていたそうです。
他の港へ行って、自分たちの略奪行為がばれることを恐れたそうですが、そのようなお咎めはなかったとのこと。

この日からちょうど1ヶ月後から、続けて5日間、村の子供たちが「神かくし」に会いました。
どこを探してもまったく見つからない。
人さらいを疑いましたが、よそ者が村に入ってきたことも、出て行ったことも目撃されていなかったのです。
結局子供たちは7人消え失せて帰ってこなかったそうです。

このような話ですが、祖父は、こう付け加えました。
本当に船には乗員がいなかったのだろうか?
本当に船の失踪には、村人たちが関与していなかったのだろうか?なにか、秘密として隠された真相があったのではないか?と。

この話と関係があるのかどうかわかりませんが、この子供たちの失踪事件の少しあと、その漁村の沖合にある島の人が、農作業をしている時に、島のものではない男が島の林の中を歩いているのを、目撃したそうです。

村での子供失踪事件は、その対岸の島にも伝えられていましたから、島民たちは、よそ者に敏感になっていたようです。
しかし、その時には、そのような人間を島に連れてきた船も、また島から連れ出した船もなかった。

リアス式の海岸部の島なので(場所が分かりそうですがw)、島の港以外には、船着場はなく、接岸上陸は容易ではなかったのに。

海にまつわる怖い話・不思議な話19

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