青いダウンジャケット

学生の頃の思い出。

友人Aの話。
彼は9割が入寮している新入生の中では珍しくアパートを借りて一人暮らしをしていた。

その日は12月25日、クリスマスイブのイベントも済ませ、翌26日からは冬休みに入る事もあり、珍しく多人数で居酒屋に行って飲んでいた。
僕が行っていた大学はキャンパスがとても広く南北に4kmくらいに渡って広がっていた。
外の居酒屋と言ってもその長いキャンパスの中ほどの外れにあり、寮から歩いていける事もあってよく利用していた。
Aのアパートはキャンパスを横切って反対側にあった。

その日もしこたま飲んでさあ帰ろうとなった。
数日前に降った雪がまだ積もっていたが、火照った体に冷たい風が気持ちよく、みんなでぞろぞろと寮まで歩いていた。
Aは冬休みに入ったら実家に帰ると話していた。
その事が結局結末を遅らせる事となった。
Aとは途中の道で別れた。

年が明けた2日、電話がかかってきた。
Aが行方不明らしい。
実家に帰って居た僕は連絡を受けて寮に帰ってきた。
同じように連絡を受けた友人数人がすでに寮に戻っていた。

僕らは手分けしてAのアパートはもちろん、友人、バイト先、パチンコ屋など、Aが行きそうな所を八方手を尽くして探した。
もちろんあの日、年末の飲み会の日、Aと別れてからAのアパートまでの道中も探してみた。
キャンパス内のあちこちに行方不明の看板が立てられ、新聞にも載ったが
一向にAは見つからなかった。

受験シーズンが過ぎた2月の半ばごろから奇妙な事が起こるようになった。
寝ているわけでもないのに幻覚を一瞬見る感じ。
クローゼットを開けるとAが着ていたものと同じ青いダウンジャケットが掛かってる。
え?と思うとそれはもう無い。
授業中もふと視界に青いダウンジャケットが目に入り、振り向いてみるがやはりそんなものはない。
悪い夢を見るわけでもない。
日常のふとした瞬間にAの青いダウンジャケットを見かけるような気がすることが続いた。

そんなとき、Aが発見された。
あの日別れた場所からだいぶ北に行ったキャンパス内のテニスコートの横の植え込みの中で凍死していた。
雪が溶け始めた頃、青い服のようなゴミが落ちていると思った職員が拾いに行って見つけたらしい。
あまり腐敗もせず、動物に荒らされた跡もなく、少しミイラ化した状態だったようだ。

Aがなぜそんなところへ歩いていったのかはわからない。
道に迷ったのか、何か目的があったのか、酔って眠り込んでしまったのか、もうそれをはっきりさせる術はない。
あの鮮やかな青いダウンジャケットを僕が見つけてやる事ができなかったことが少し悔しい。

死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?252

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