視線

知り合いの話。

地区の子供会でキャンプをおこなった時のこと。

炊事担当であった彼女は、夕食のカレーを支度していた。
灰汁をすくっていると、不意に胸騒ぎがした。
顔を上げて、河原で遊んでいる子供たちを確認する。
中に一人、理由はわからないが、なぜか気になった子がいた。

しかし異常は見られず、彼女は内心首を傾げながらも、調理を続けた。
そのまま何事もなく、キャンプは無事に終了したという

山から帰って二日後に、キャンプに参加した子供が一人、急死した。
交通事故だった。彼女が気になった、正にその子だった。

葬儀の後しばらくしてから、子供会の会合が開かれた。
ついでだったのか、その席でキャンプの記録ビデオが上映された。
亡くなった子も元気な姿で映っており、皆の涙を誘ったそうだ。

やがて画面が夕食の準備風景に変わる。
それまでばらばらに動いていた大人たちが、不意に同じ動作をした。
一斉に顔を上げて、河原の子供たちをじっと見つめる。
皆の視線が一つにまとまり、すぐに奇妙な顔をして持ち場に戻っていく。

ビデオを見ていた人たちは、彼女を含め、全員が凍りついたようになっていた。
それ以上キャンプが話題になることはなく、会合は終了したという。

山にまつわる怖い話10

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