UFO的なもの

わたし自身は24にして人生で一度しか登山をしたことがないのだが、友人がこんな話をした。

おととしの夏、観光を兼ねて広島県の山を一人で楽しんでいた。
午後3時をまわったころ、頂上部(尾根っていうの?)の平坦な道を気持ちよく歩いていると、ふと足元に見慣れない影がある。
自分の影の脇に、まぁるく。なんだろうと見回すと、背後に古い「マンガ世界の不思議」みたいな本に出てくるような、いわゆるUFO的なものが浮かんでいた。

しかしそれはイメージよりも小さく、高度10mくらいを揺れもせず浮遊しているのだが、サイズ的にはやや大き目の帽子ていどだったという。
下部にぽっかり穴が空いているようだったが彼と一定の距離をおくように浮遊するので覗き込むことができなかった。

ラジコンの類で誰かがイタズラしているのかと思い辺りを探ったが、人影はない。
気味が悪いので石を狙ってなげてみたが、円盤はヒョイと、難なくよける。
これはますますラジコンではないぞ……と薄気味悪くなったので座り込んでにらみ合いをすることにした。
どの方向に歩き出しても、彼の背後をついてくるため不安で、どうにも移動できないのだ。
怒鳴ったり、石や枝を投げても、退散する気配はない。
日は暮れだしている。

夜になったらまずいな……
と不安に駆られていたとき、ワシャワシャワシャ、と茂みを掻き分けなにかが近づく音がして、彼は心底びびった。
宇宙人の本体か、CIAか、とマジでびびってちびりそうになる。

出てきたのは野良着を着た、中年のオバサンだった。
オバサンが「こらー!」と叫ぶと円盤はしらけたようにゆっくりと木々のむこうに消えていったそうな。

「あぶないよ、あんた、あれが出るときは決まって行方不明者が出るんだよ!山に入るとき、行方不明者多数、一人で入るなって看板あったでしょ!駄目だよ守らなきゃ!(現地の方言に変換してお読みください)」
彼は若さにものを言わせて登山道でない方面から登りはじめたため、看板を見逃していた。

見るとオバサンの太股や手は細かい傷でいっぱいだった。
聞くと、円盤を見てまた馬鹿が単独登山したと思い隣の尾根?から駆け足でやってきたという。
彼はそれまでの恐怖を忘れて、オバサンの情の深さに感激し、涙が滲んできたという。

後日談、というか余談ですが。

彼は山で一夜を明かすつもりだったが、さすがにそれはできない&させられないというのでオバサンの家にやっかいになることになった。
そこで十九歳の自称フリーター(といっても田舎だから実際は家事手伝い兼自宅の雑貨屋でバイト)の娘さんと知り合い、オバサンへの感謝や旅先の高揚感、怪奇現象への興奮も作用していたのだろうか、一目ぼれしてしまい「オバサンみたいなおかあさんがいたらいいなあ」と、自分も元気な母親がいるくせに意味のわからないキモいアプローチをしていたらしい。

結局図々しく二晩をそこで過ごし、飯をたらふく食い、娘さんとプレステ2をしまくって帰宅。
娘とはメル友になり、去年になって娘さんが東京の専門に行くと家族に騒ぎ出し、問いただせば実は彼に会いたかったっていう……。近々ゴールインしそうだとか。

「ありゃ縁結びの神様なんじゃないかなあ」と先週、彼女を連れてきた彼は言った。
アホが、一回アブダクションされてろ、と思った。

山にまつわる怖い話24

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