不思議なメッセージ

或る船長の昔話

貨客船の船長をしていた頃、ある夜甲板に出てパイプをふかしていた。
すると船員がやって来て、「船長、船長室に誰か居ります」と伝えた。
「そんな筈はないが、密航者かも知れん」と言い、船員と連れ立って戻った。
船長室には誰も居らず、机の上にペンで走り書きが残してあった。

『南に進路を取れ』

誰のイタズラかは分からなかったが、ペンのインクはまだ生乾きだった。
最初に呼びに来た船員の話では、船長室の前を通りかかったところ、何となく扉の丸窓を覗こうと見ると、船長室の中で見知らぬ背の高い男が机に向かって何か書き物をしていたようだったと話した。

「南に進路を取れだと?」
船長は不審に思ったものの、急ぎの航路でも無かったので一つこの不思議なメッセージに乗ってみることにした。

船は南進し、暫くすると霧の海上で一隻の遭難船らしい船舶に遭遇した。
早速救難するともう何日も航行不能であったらしく、餓死者もおり、生存者のみを船に移して帰港することとした。
その作業中、例の船員の一人が黒い服の背の高い男を指して船長に告げた。
「あの男です船長!船長室に居たのは!」
船長から遭難船の船長にその話をふってみると意外な事を話した。

「あの男は実は他の難波した船から引き揚げた男なんです。そのまま船で働かせていたのですが、今回の遭難の間に彼が急に意識を喪って倒れた後に目を覚まして言うには、今助けを呼んできた。もうすぐこの船は助かるなどと話していました」

船長はその話を聞いて、大層不思議がったという。

海にまつわる怖い話・不思議な話20

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