葦の間に立つ女

友人Kの話

Kの故郷は田舎の小さな集落で、彼の家は集落から更に離れた山奥にポツンと建つ一軒家だった。
集落まで3時間近くかけて通学していたので、夏休みなどに泊まりがけで友人が遊びに来る以外、いつも一人で遊んでいた。

ある日、釣りをしようと思い沼に向っていると、沼に近づくにつれ妙な音が聞こえてきた。
赤ん坊の泣き声のようだった。

『鳥や蛙じゃない…』彼の頭には”水木しげる”の妖怪百物語に登場する『川赤子』が浮かんだ。
足音を忍ばせ沼に近づいたのは、幽霊とは違い、妖怪には面白いイメージもあったからだと言う

彼は沼から少し離れた大きな椎の木に昇った。
姿を隠して沼を見渡すには絶好の場所だった。
だが、目をこらすまでもなく、生い茂る葦の間にハイカーのような恰好の女が立っているのが見えた。

少し拍子抜けした瞬間、寒気がした。
例えるなら風邪をひく前の嫌な感じだという。
女は明らかに異常だった。
気味の悪い声を出す以前の問題だった。
彼は女に気付かれぬよう、慌てて逃げ帰った。

『何が変って…声もだけど、とにかく大きすぎたんだ』

180cm以上ある彼の父親の背を遥かに越す葦の群生は、女の胸あたりまでしかなかったそうだ。

山にまつわる怖い話29

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