婆ちゃんの爺ちゃんの話
婆ちゃんの家は、元は大庄屋だったそうで、婆ちゃんの爺ちゃんは結構なお殿様だったらしい。
奥さんが居るのに愛人を作って、止める奥さんを柱に縛り付け、馬にまたがり、颯爽と愛人の元へ消えて行く、そんな人だったとか。
そんな婆ちゃんの爺ちゃんがまだ結婚する前の話。
ある日、山を越えた村の娘さんに恋をした。
馬にまたがり山を掛けて行く婆ちゃんの爺ちゃん、その日は出発前に母親が「今日は行くな」と何度も引き止めたが、恋に燃える爺ちゃんは聞く耳持たず。
と、峠の近くで葬式の列を見かけた。
暫く行列を眺める爺ちゃん。
行列はかなり長く、誰が死んだのか気になった爺ちゃんは馬を下りて訊ねてみようと思ったそうだ。
が、そのとき爺ちゃん愛用の褌がブチと音を立てた。
爺ちゃんの褌は、母親が手縫いで作った絹の褌。
滅多な事では切れない、今まで破れはしても切れた事など無い。
爺ちゃんは「こんな褌で女の所に行けん!」と元来た道を急いで帰った。
山の麓まで来た時、うろうろしている母親を発見した爺ちゃん。
「なにしよるね」「○○さん(爺ちゃん)を待っとったそ」
「なして」「心配しとったそよ」
そんな事を話しながら、爺ちゃんは褌が気になって仕方ない。
「褌が切れたから帰って来たぃね。途中で葬式を見た。
かなりの行列やったが、あれは誰かね」
そう言うと、母親の顔色がさっと変わり
「誰にも言わんでええぃね。はよ帰ろういね」と言われてしまった。
爺ちゃんは女の所へ行きたくて仕方なかったが、母親の反応が気味悪く、その日は大人しく家に籠る事にした。
ちなみに爺ちゃんの村でも山の向こうの村でもその日に葬式を行った家は無かったそうだ。
結局その葬式がなんだったのかは、婆ちゃんの爺ちゃんも、その母親もとっくに死んでるので分からない。
これまた怖くないけど、何故か覚えている話。
山にまつわる怖い話31