祖父が家に居る

学生時代、祖母と二人で古い家に住んでいた。
とにかく廊下が長くて、広いのに2部屋しか電気が点いていないから夜トイレに行くときなんかはめちゃくちゃ怖かった。

怖がる私に、祖母は
「この家にはおじいちゃん(故人)がいるから大丈夫だが、何か?」
と言って、さらにビビらせてくれた。

祖母の上述の発言は怖いから信じないようにしてたんだけど、とあるきっかけで、以来信じるようになった。

夏休みに、友人数人と箱根に遊びに行くことになり、ウチで待ち合わせた。

この古い家の構造は、正面玄関を入るといきなり洋風の応接室になっていて、応接室をまっすぐつっきって奥のドアを出ると廊下、応接室の左がふすまで区切られた仏間。
仏間の左の襖を開けると床の間がある宴会場のような広間。

この3部屋を区切るふすまと両端の窓を開け放つと風が通って涼しい。
仏間がちょうど庭の木の陰になるので、全員そろうまで仏間にちゃぶ台出してカルピスを飲んで喋っていた。

私は洋間に背を向けて、友人2人は私の向かいに座っていた。
ふと、向かいの二人が私の後ろの方を上目遣いで見る。
一人は軽く会釈、もう一人は廊下の方へと目を動かす。
玄関が開けばでかい音がするはずだし、祖母ならば足が悪いので、歩いてくれば音で判る。
気になったが、その時はそのまま友人たちとバカ話の続きをした。

箱根から帰ってすぐ、また件の友人と会った時、何気なくその時のことを尋ねてみた。二人ともよく覚えている、と言う。
誰かが玄関から廊下へと歩いていったらしい。
私たちの方を見た、とも、立ち止まった、とも言った。

しかし、どんな人だったかは二人とも覚えていないらしい。
友人のうち一人は「白っぽい人」だったと言うがなんじゃそりゃ?
その人は幽霊とかそういう気持ちの悪い感じはしなかったとも言っていた。

釈然としない話だけど、なんとなくそれ以来、私も「祖父が家に居る」と思い始めた。
廊下の途中や応接室で、祖父のニオイがする事に気付いた。
整髪料と腰痛の塗り薬と洗濯ノリと加齢臭が混じったようなニオイ。
それがフッと風が動いたときに匂ってくる。

その後、私は就職して一人暮らしを始め、妹が代わりに祖母と住み始めたが、妹にはハッキリと祖父が居ると感じられるらしい。

ほんのりと怖い話5

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