枯れ木立の間から見たもの

10年前の友人の話

彼は東北に程近い某県で農業を営んでいました。
春も近いある日の事、東京から友人が二人、遊びに来ました。

友人は美味いウィスキーの水割りが飲みたいと、この辺りの山の湧き水を汲みにいこうと言い出しました。
彼も一緒ポリ容器を持ち、三人で雪の積もった山道を登り始めました。

水を汲み終わり、三人でよろよろ歩いていると、友人の一人が立ち止まり、無言で枯れ木立の間を指差しました。

枯れ木立の間にいたのは、異様に真っ黒い何かでした。
その黒い何かはぶるぶると痙攣する様に、蠢いていたそうです。

彼は、熊だと思いました。
だが熊にしては小さいし、とても奇妙な動きをしている。
しかも、体を覆う毛はまるで海藻の様でした。

不審に思いはしたものの、もし熊なら、刺激しないように静かに逃げなければいけません。
しかし、一人の友人は死人の様な顔色で叫び声を上げて顔をぐちゃぐちゃにして嘔吐しだしたそうです。
彼ともう一人の友人はポリ容器を放り出し、おかしくなった友人を引きずって逃げ出しました。

ようやく家に帰り着いたものの、友人は青ざめて震え続け異常なまま、ぶつぶつと誰かに対する言い訳?の様な言葉をひたすら呟いていて、誰とも目を合わせません。
とりあえず布団を敷き休ませ、明日病院に連れていく事に。

しかし、目を離した隙に友人は消えてしまいました。
それきり友人は行方不明。警察に届けを出したが消息は掴めず。
妻子にも連絡はなかったそうです。

後日、ある所より連絡があり、友人は見つかりました。
ですが、この後の話は詳しく書けません。
ただ、五体満足ではなかった事、人間らしい会話が出来なかったという事です。

それから補足ですが、おかしくなった友人も、某県の出身です。
友人は妻より離婚を言い渡され、正気に戻らないまま親戚に連れられていったそうです。

山にまつわる怖い話34

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