タンスの奥さん

高校時代の英語教師に聞いた話。

判りやすい授業と淡々としたユーモアが売りで、生徒と余り馴れ合う事はないけれど、中々人気のある先生でした。

昔奥さんが死んだ時(話の枕がこれだったので、そんな事実初耳だった我々は、その時点で相当びびり気味だったのですが)彼は良く不思議な幻を見たそうです。
それはもう使う人のない奥さん用のタンスの引き出しが開き、そこから奥さんが頭半分を出してベッドに寝ている先生を見ているというものでした。

彼は「ああ、家族の死で私は精神的に不安定になっているのだな」と病院へ行き、精神科などに相談し薬などを出してもらい、なるべく疲れないよう、ストレスをためない様にしてみましたが、奥さんは相変わらず夜になると箪笥の引き出しに姿を現し、微妙なポージングで彼を見ていたそうです。

精神的なものでないのなら、現実に起こっている事だと判断した先生、ある時その箪笥の引き出しに体を入れ、全身でがたがた揺すりながら長い時間をかけて引き出しを閉めてしまったそうです。

そこで長い事待っていると「あら」とかなんとか、奥さんの声がしたそうです。
思えばリアクションを用意していた訳ではない先生(「冷静なつもりが矢張動揺していたんですね」とか言ってました)困っていると、奥さんが「あなたは太っているから、ここじゃ無理よ」等と言い、先生もそうだなあと思い、またがたがたやって、出たそうです。

因にその箪笥はまだ先生のうちにあり、疲れた時など奥さんが登場しているのが寝入りばな見えるとの事でした。

「いい話」ではなく「ほんのり」にしたのは、この話の締めとして「私は大丈夫だったけれど、気弱な人だったら、引き出しに入ったまま死んでもいいと思ってしまうかもしれない居心地の良さでした」
とか淡々と語ってらした内容が……。

更にまだ箪笥をお持ちという事が自分的にほんのり。

ほんのりと怖い話18

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