庫裏跡

知り合いの話。

彼の実家は山奥の神社である。
神主職を継いではいないが、社の仕事はよく手伝っているそうだ。

そこの社の裏手に、昔は庫裏として使われていた小さな建物がある。
今は単に物置として使われているらしい。滅多に出し入れは行わないが。
その近辺の掃除を、彼は時々させられるという。

いつの頃からか、その庫裏跡に入るとヒヤッとするようになった。
暑い夏の盛りでも、なぜかそこだけは空気が肌寒い感じもする。
「いや別に、嫌な雰囲気とかはまったく無いんだけどね」と彼は言う。

掃除の世話を始めて気が付いたのだが、他にも奇妙なことがある。
小さな生き物がそこを避けているみたいなのだと。

そこの建物にだけは、蜘蛛が巣を絶対に張らない。
社には毎年沢山の燕が来るが、そこにだけは巣を掛けない。
虫もそこにはまず近よらない。蚊取り線香も要らない程だ。
なのに冬前の大掃除の際には、そこの床下からはカサカサに干からびた虫の死体が山のように出てくる。

現在、掃除を始める前には「失礼します。掃除をさせて頂きます」というような挨拶をしているのだと彼は言う。
「何が居られるのかはわからないけど、失礼がないようにね」
今のところ彼の身には、別に良いことも悪いことも起こっていないそうだ。

山にまつわる怖い話27

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