いつもと違う道

田舎で聞いた話

田舎で聞いた話です。
教えてくれた人が若い頃なので、かれこれ60年以上前のことです。
その人は、毎朝、山を二つ越えて学校に通っていました。

ある年の秋の頃、学校から帰る途中にいつもと違う道を通ったそうです。
獣道のようでしたが、下草が刈ってあり、通りやすいようになっていたので意外と楽に歩けました。
途中、崖の沿いを通っていると大きな岩が出っ張っていて、ちょうど眺めもよさそうだったので一息つくことにしました。

岩に座って景色を眺めていると、後ろから「おい!そんなところで何しよるんじゃ!」と怒鳴り声が聞こえました。
驚いて振り返ると、背負子を背負った二十代後半くらいの若者がいます。

「いえ、学校の帰りに休んでいるだけです。」と言うと「お前、○○屋(屋号)の次男じゃろう?」と言われました。
「はい、そうですけど・・すみませんがどちら様で?」と聞くとそれには答えず「ちょうどええ、これを役場の○○に届けてくれや。」と腕時計を渡されました。

「はあ、わかりました。で、どちら様で・・?」
ともう一度聞こうとすると、「はよう行け。もう来るんじゃない。」
と無理やりに立たされて、追い払うように帰らされました。
「なんなんだろう?あの人・・・」と思いながら、うちに帰るといつもより30分以上早く帰宅していました。

「よし、こんどからあの道を使おう。」と思いつつ、役場に行き「すみません、○○さんはおられますか?」と聞くと、中年のおじさんが出てきて、「私ですが、なにか御用ですか?」と言われました。

とりあえず、時計を渡し、状況や男性の特徴を言うと
「それは・うちの息子に違いないですが、10年以上前に神隠しに・・」
その場は騒ぎになり、役所から帰宅したのは日が落ちてからになりました。

ウチに帰ると「お前、いつもと違う道通ったろ?」と祖父に聞かれました。
「ああ、そうだけど・・」と答えると
「山では通いなれた道以外を通ったらいかん、人気の無い道を選んで魔が走ることがあるからのう。もしかしたらお前が神隠しに遭ったかもしれんのじゃ。」
そう言われて初めて怖くなり、寒気がしました。
その夜から熱を出し、しばらく寝込んだそうです。

山にまつわる怖い話39

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする