うち、父が小さい頃に亡くなって。それから母の姓になった。
それから母と2人暮らししてきたんだけど、貧乏でね。
某地方の県立高校入ってからバイトしてたんだけど、学校が厳しくて、些細なところからバレて、処分はないけどかなりお咎めくらった。

バイトすると時間とられるから成績落ちちゃって。
でも自分で月の学費払ってもんだから、金欲しくて欲しくて。
あまり母に負担かけられないなあとは思ってた。

ある日、とある小さな個人経営の本屋で参考書を選んでた。
下校帰宅途中にある本屋で、たまたま発見したところで、なにげにしょっちゅう通っていた。

しばらく選んでたら突然、本の棚の脇からじいさんが出てきた。
奥に事務所があるみたいで、ドアがあった。それまで気づかなかった。
どうやらその開いているドア見たら、片側(事務所側)からだけ、店内が見える素材のものだった。万引き防止のため。

そんでじいさん、俺にいきなり、「ちょっとこっち来なさい」と。
俺、即反応して、「万引きしてませんよ」と言ったんだけど、じいさんが「まあまあいいから。お茶でも飲みなさい」とか言って、なし崩しで事務所に入れられてしまった。まったく意味不明。

じいさん、俺の襟の校章見て、「○○髙か、頭いいな」なんて。
俺は「万引きとかしてませんよ」とまた言ったんだけど、じいさん、「知ってるよ」と、お茶を出してくれた。
そんでいきなり俺に「暇あったらうちでバイトせんか?」と。
そんで、いつもレジにいるおばさんも事務所に入ってきた。

なんでも、俺がいつも暗い顔して買いに来るのを話題にしてたそうで。
店の中でため息ついてたときもあったとか。悩み事多かったからか。
んでその頃、求人誌も買ってたもんだから、気になってたとかで。

結局そのまま茶を飲みながら、簡単なこと聞かれ、普通に答えた。
俺は、「学校でバイト禁止なので、それがバレたらまずいです」と。
するとじいさんが、「親戚だって言ってやるから心配するな」と。
なぜかそんな流れが一気にできあがり、翌日からお世話になることに。
途中で偶然、同学年クラスの担任が店に来たが、宣言通りにじいさんがごまかしてくれたこともあった。

働いてすぐにわかったことなんだけど、レジのおばさんは、じいさんの娘。
名前は洋子(仮名)さんという方で、どうやらずっと独身。
もともとその洋子さんってのが俺を気になり、人手不足もあったので、「お父さん、よく来るあの子に声かけてみたら?」ということだった。

じいさんは他にも別業種の会社をもっており、その手伝いもした。
高校生にしてはもらえる金額がでかかったので、頑張った。
ほんと、いい経験させてもらったと思ってる。
学校→バイト→帰宅して勉強、の繰り返しで、高校卒業まで1年半ほぼ毎日働いたが、その後、大学進学の金もなんとか都合がついたので、県外の大学へ。

就職後に帰省したとき、ひさびさその本屋に菓子折持参で顔を出した。
じいさんは亡くなっており、洋子さんが1人でやっていた。
「父もね、よく気にしてたよキミのこと。元気かな」って、と。

それから数年して、母と久々二人暮らしすることになった。
俺の働く県へ呼んで、隠居みたいな形に。
そうなるといろいろ話す時間も増えるもんで、亡くなった父のことも話す機会がけっこうできた。

ある時、母が俺に、「あんたのお父さんね、若い頃、私と付き合う前に駆け落ちしたことあるんだってよ」と笑いながら言ってきた。
俺は初耳だったので、興味津々で聞いた。あまり父のこと知らなかったし。

母はその相手の名前を覚えていて教えてくれた。
それはちょうど、本屋の洋子さんと同姓同名だった。
母にそれを話すと、「もしかしてそれってその人?」みたいな話になり、俺は母が父から聞いていることを思い出してもらった。

すると、「相手の父はいくつか会社もってる人」というのがわかった。
名字からするとあまりいなそうなので、たぶん洋子さんかな、と。
俺はそれで、もしかして何か俺のこと知っててバイト誘ったのか?と。
しかし母に「あんた名字変わってるし、顔も私似だから違うんじゃない」と言われて、それもそうだな、と。まあよくわからなかった。

母は笑いながら、「何かの縁かもよ。次に行ったら顔出してきな」と。
でもなんだかいてもたってもいられない気分になった。
地元にいる友達に電話し、本屋がまだあるか調べてもらった。まだ営業してる。
その名字についても調べてもらったら、たぶん同一人物ではないかと言われた。

それから1ヶ月後に育ったその町へ車で出向いた。
また菓子折もって本屋に顔を出した。洋子さんは元気そうだった。
いきなり店で話するのもなんなので、「1人でご飯行くのもなんなので、一緒にどっかで食べませんか今晩」と誘った。

洋子さんは、「あら嬉しいわねこんなおばさんを」とかなんとか笑って、「うちすぐ近くだから、何か作るわよ。終わる頃また来て」と。
結局終わり頃に行き、買い物つきあって、お宅訪問することに。

単刀直入に父の名前を出して聞いたら、やはりそうで。洋子さん、固まってた。
落ち着いてから、「話してもいいのかな」と言ったが、俺が「うちの母も知ってますし、笑ってましたよ」と。

そんで聞いたら、父とは普通につきあってて、結婚をもちろん考えたんだけど。
洋子さんの父=じいさん、がちょっとヤバめな筋に絡んでいた時期があったので、それがうちの父方の家からすると、「そんなとこの娘とは結婚してはいかん」と。
そんなこんなで父は無理にお見合いさせられたり。

それでどうしようもなくて、駆け落ちしたそうで。
うちの父がじいさんに、それを前もって言ったらしい。「僕の力不足です」と。
それでじいさん、自分の責任だと思って、じいさんと洋子さんとうちの父と3人で泣いたことあるんだとか。
それからじいさんは金たくさんもたせてくれて、それで準備してからいざ駆け落ちしたらしい。

結局、父と洋子さんが別れた理由までは聞けなかったけど、洋子さんがそれからずーっと独身だということは聞いた。
俺も父のことそんなに知らないので、若い頃の話を聞けて嬉しかった。

俺に関しては全くの偶然だったと言われた。
ただまあ、うちの父が引き合わせたんだろうね、と言い、笑った。
俺が金欲しくてさまよってるのを見かねてだろうか。

不可解な体験、謎な話~enigma~ 49

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コメント

  1. 上松 煌 より:

     ああ~、いい話だなぁ。
    昔からの日本のことわざに、【縁は異なもの 味なもの】って、いうのがあってね。
    なんかホッコリさせてもらったよ。
    お元気で!