俺は、男子寮に住んでる。
つい先週日曜に、ここで不審者進入騒ぎがあった。
玄関口には監視カメラ、エレベータにも監視カメラがあって、正面からの出入りは完全にチェックしてるんだが、そこには何も写ってなかった。
つまり、非常階段からの進入。
寮生たちもよく利用するんだが、非常階段の一階部分には外から柵がかかっているにも関わらず、上手くすると入り込めてしまう。
以前にも、よく寮生がそこを使ってるとこを見つかって通報されたりしてたんだが、何の対策も取らない寮側の姿勢に今回強く疑問を持った。
寮生の目撃によって発報、一階の寮長室から各部屋に放送が流れた。
「不審者侵入、寮生は部屋から出ず、施錠して待機して下さい」
日曜に部屋から出ない奴なんて、暇人以外には居ない。
俺と相部屋の二人も当然暇を持て余しており、外で遊ぶ金も無いのでその放送が来るまで「桃太郎電鉄USA」をしていた。
そう、待ちに待った絶好の刺激が訪れたのだ。
俺たちも例に漏れず部屋から飛び出した。
下階から「階段で上行ったぞー!女だ!」という叫び声という声が聞こえた。
見回すと、俺たちと同じ様な連中が目をギラギラさせて「オイ、女だぜ、美人かな?」とか言っていた。
とりあえず、皆非常階段で下に向かった。
そして、遭遇した。
こちら(上階)の先頭集団と、あちら(下階)の先頭集団に挟まれた、女。
いや、あれは女というよりアニマルだった、途方も無く不健康そうな顔色(もんた色とでも言おうか)と、綺麗なのだが、何だか触りたくない髪、それにかなりの体格の持ち主だ。
これは戦いたくない、皆がそう思ったに違いない。
数秒、しかし数分にも感じられる沈黙の据え、女が泣きそうに顔を歪めて階段を飛び上がった。
情けない事に、一人として取り押さえられる者は居なかった。
なぜならこの寮は、提携専門学校生オンリーの寮だったからだ。
かくいう俺も「うわ、うわわわわ」とか言って皆といっしょに逃げかかっていた。
しかし、女は6階への扉を開け、たまたま開け放しになっていた寮生の部屋に突入。
そのまま鍵を閉めた。
たまたまそこの部屋の住人二人が揃っていたため、そいつらの持っていた鍵で開けて、俺含めた8人程が突入。
鼻息荒く、部屋を探し回るが、居ない。
居ないのだ。
それぞれが殆どの場所を探ったために、匿うなどの事は考えられない。
窓から逃げたかと思われたが、そこもしっかり施錠されていた。
第一、この高さから落ちてはいくらあの体格でもひとたまりもないだろう。
その後、寮長にみっちり絞られた俺たちは、覚めやらぬ興奮と、幾許かの気持ち悪さを胸にいつもと変わらぬ一日を過ごした。
その直後に警察も来たらしいが、女の身柄は見つからなかったらしい。
ただ、あの女がこの寮で消えたという事だけが気持ち悪い。
あの歪んだ顔が、頭から離れない。
ほんのりと怖い話24