上の句と下の句

友人から聞いた話

友人から聞いた話です。
彼は私の田舎の中学で国語の教師をしています。
趣味は短歌を作ること、と生まれ着いての国語教師のような性格で仕事の往き帰りや、山に行っては一首できないかと頭をひねっています。

ある秋、仕事を終えていつも通る田んぼ沿いの道を歩いていると、ふと上の句が浮かんできました。
「お辞儀した 稲穂を巡る 赤とんぼ・・・」と上の句をつぶやきつつ下の句を考えていると「・・・・・・ってのはどうだい?」と誰かが言いました。
「いや、それでは字余りになるんだよなあ」と彼が応えると「そうか・・・残念」と誰かは言いました。

「ん?今の誰だっけ?」と思った彼は振り返りましたが誰もいません。
あたりを見回しても、誰もいない夕暮れの田んぼが広がっているだけで人の気配はありません。

「おかしいな・・誰かがいた筈なんだが・・」とあたりを探していると「じゃあ、こんなのはどうだ?」と何処からともなく声が聞こえました。
飛び上がって驚いた彼は全速力で家に帰ったそうです。
翌日から同じ道を使うのが怖くなったそうですが、怖がりながらも通っているそうです。

「とにかく、腰抜かすかと思ったわ」と彼は言っていました。
今でも同じ道を使っているそうですが、それ以降は何事も無く通勤しているそうです。

山にまつわる怖い話43

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