俺は幼稚園児だった頃、かなりボーッとしたガキだったんで、母親は俺をアパートの留守番に置いて、買い物に行ったり小さな仕事を取りに行ったりと出かけていた。
ある日いつものように一人でボーッとしていたら、誰もいないはずの台所でガタガタ音がするのに気がついた。
誰もいないはずだよね~と襖を少し開けて見てみたら、見知らぬニーちゃんが二人、台所のあちこちの引き出しを開けてなんだか探していた。
泥棒だ!と驚いて、流石に怖くなって押し入れに隠れようとした。窓から大声出して助けを求めようとは気がつかなかった。
押し入れの襖を開けると、漆みたいな色をしている大きな箱があったので、そこに隠れた。
しばらくして台所方面の襖を開ける音がして、ボンボンと足音が聞こえてくる。
…そりゃ、泥棒もすぐ押し入れのでかい箱に気がつくよな、部屋の真ん中に引き摺られる感触がして、蓋を開けようとして…開かない。
別に中から俺がなにかしてるわけでもないのに、すぐ外から「ん!ん!」って声も聞こえているけど、蓋が開かない。
もう一人の小さな声が聞こえて、ちょっとだけ開けようという力を感じたんだけど、すぐ静かになった。
ベテランの泥棒って三分とか五分とか時間を決めて、獲れるものだけ獲って、あとは諦めるんだってな。
それを知らないからずーっと息を潜めていたら、しばらくして母親の驚く声が聞こえた。
警察を呼んで、結局泥棒は見つからなかったんだけど、なんで俺が無事だったのか、みんな不思議がってた。
だいぶ経ってから母親から、その箱は「葛籠(つづら)」というものであり、俺のバーちゃんがジーちゃんの家に嫁に来たとき嫁入り道具を入れていたもんだって聞いた。
不可解な体験、謎な話~enigma~ 58