うちの隣町には、いわゆる「姥捨て山伝説」があって、それにからんで七人みさきっぽい話がある。
「おっぴ」とか「すずぬん(七人)ばんつぁ(おばあさん)」って地元では言ってる。
すごく簡単にいってしまうと、
「その姥捨て山に捨てられた老女が、一人であの世に行くのはさみしいから、その仲間を探してる。霧の出た夜に、その山の近くを通ると、連れて行かれる」
っていった話。
この山は、その他にも風穴(常に五℃前後の地下からの風が吹き出す穴)が無数にあって、山の生態系がメチャクチャなことでも有名らしかった。たまにどこかの大学の研究者なんかがきてた。
そして、この山は、地元では結構ゆうめいな肝試しスポットになってて、誰もが中学生や高校生の夏休みに、一度は行ってみる場所なんだ。
俺も、高3の夏に、友達4人といった。
その「姥捨て山」は、500メートルくらいの小さな山で、頂上の近くまで車で入っていける林道がとおっている。
だから俺たちも、友達の兄貴のゲンチャリに二個乗りして、二台で林道の終点まで行った。
その先は、山道になってて、歩いて頂上までいけた。頂上には小さな祠がある。
もちろん街灯なんてないから、俺たちはそれぞれにマグライトやヘッドライトをもっていったけど、あたりは真っ暗で、ほとんど自分の足元しか照らせないような状態だった。
夜の森なんて、どこでもそうだと思うけど、木が邪魔して、ほとんど光が通らない。
「やべぇ、夜来たのはじめてだけど、かなりこえーな」
「つーか、ほんとに出てもおかしくねーよな、『おっぴ』がさ」
「んだってさ(だけどね)、『おっぴ』とかばんつぁん(おばあさん)が山さ捨てられたのって、もう江戸時代とか、そんくらい前だろ? そろそろ成仏してんじゃねーのか?」
そんな、とりとめのない会話をしながら、俺たちは一列になって山道を進んでいった。
地面にむき出しになった植物の根に、何回か足をとられながら進んでいった。
頂上に着く前の道の脇に湧き水があって、俺らは、夏の夜の暑さと、山を登った疲れもあって、その水をかわりばんこに飲んだ。
四人目の友達が水を飲み終わったとき、メンバーの中では一番やんちゃだったBが「おれの湧き水もわいてきた」といって、湧き水の泉に、立小便をはじめた。
今考えると、これがまずかったと思う。
その後、二十分くらいで頂上についた。
けっきょく怖い思いもせずに、頂上についたわけで、俺らは少し拍子抜けしていた。
疲れただけで、たいして面白いこともなかったので、すぐに山を降りることにした。
あとは近所のファミレスにでもいくつもりだった。
山を下って、湧き水の泉を過ぎて、少し行ったところには沢山の風穴があった。
山道の中でも、そこだけは風穴から吹き出す冷気のせいで、すこしだけ肌寒かった。
でも、山道を歩いて、体がほてった俺たちには、気持ちのいい冷たさだった。
「お、涼しいな」そういいながら、俺たちは少し立ち止まって、風穴に近づいて冷気にあたった。
そしてBは、小さなマンホールほどの大きさの風穴に右手を突っ込んで「お~、つめてー」というようなことを言っていた。
俺もBとは別の風穴から吹き出す冷気にあたっていた。
そのとき、俺の後ろから「ゴロ」っという音がして、続いてBの悲鳴が上がった。
驚いて振り向くと、Bは、右手を風穴に突っ込んだまま、尻餅をついて、もがいていた。
あとでわかったことなのだが、風穴の中で石が崩れて、Bの手首をつぶしていたんだ。
俺たちは、その場でどうにかしようと、Bの腕を引っ張ってみたが、Bが痛がるだけで、結局どうしようもなく、俺とBがその場に残り、ほかの二人が、大人を呼びに行った。
最終的には消防までやってきて、やっとBの手は風穴から抜けた。
Bの手首は、関節の骨が砕けていて、かなりの重症だった。
俺たちは、その後こっぴどくしかられて、それぞれの家に帰った。
家に帰ってから、その夜のことを、親に話すと、その話を近くで聞いていたばあちゃんが「○○(俺の名前)、庭さ出ろ」といった。
そして、俺が庭に出ると、ばあちゃんは、庭にあった、葉のふちに棘がある木の枝を切って、その束で俺を叩いたんだ。 ばあちゃんは「しんどいけど、がまんしろ」といって、しばらく俺を叩いた。
そのあと、ばあちゃんが俺に話してくれたのは、こんな話だった。
「痛くしてわるがったな。いまのはご不浄のはらいだがら。んでな、○○の行った山な、あの山のな、『おっぴ』とか『ばんつぁ』の話はな、ほんとかどうか、ばあちゃんさはわがんね。 んだけど、あの山さ、ばあちゃんくらいのばんちゃが捨てられてたのは、ほんとの話なんだ。ばあちゃんが子供くらいの時には、まだあったんだ。んでな、そういうばんちゃが、なんにも食えなぐなって、水だけ飲んでたのがあの湧き水なんだ。 んだがらな、○○の友達がやったごどはな、許さいねい(ゆるされない)ごどなんだよ」
ほんのりと怖い話33