若い女性と弁当箱

高校時代の友人が結婚して、式の為に友人の実家の方へ呼ばれた。
山に囲まれた田舎で、道路こそ舗装されていたが、家より田んぼの方が多い。
俺は車が無いので、バスを乗り継いで2時間以上乗るハメになった。
友人の家は、庭に大木の生えた大きな家。
式は公民館的な場所で行われ、出席者は100人以上いたかも知れない。

終わったのは、陽が沈みかけていた頃で、俺は飛行機が無いので、友人宅で一泊する事になった。
翌日、帰る時に友人の母親が、弁当だと言って小さな包みを2つくれた。

帰りのバスも乗り継ぎで、最初のバスを降りてから30分程待つ事になる。
バス停は大きな舗装道路沿いにあって、すぐ後ろは山。
道路沿いには他に何も無く、車は1台も通らなかったと思う。

俺は弁当を食べようと思ったが、2つある包みの中には、それぞれに赤飯とおかずが2つの容器に分けて入れてあった。
1人分の弁当なら、包みの1つに赤飯、もう1つにおかずじゃないのか?
俺が渡されたのは、2人分の弁当という事になる(俺は独身である)。
「?」と思いながら弁当を食べていると、しばらくして視線を感じた。

ふと、横を見ると、見知らぬ若い女性が少し離れて立っていた。
乳白色の着物を着ていて、目が異様に大きい以外は美人の部類だと思う。
心臓が止まりそうになって、しばらく体が動かなかったのを覚えている。

箸を止めたまま見つめ合っていると、女性が少しずつ近付いて来た。
それが凄いプレッシャーで、まともに息も出来ないくらいだった。
女性は、俺に手が届く程度の距離まで近付くと、目を細めて何か言った。
日本語だったと思うが、ほとんど聞き取れず困惑していると、女性が着物の裾から枯れ枝の様な箸を取り出したので、手を付けていない方の弁当を咄嗟に差し出した。

弁当を受け取った女性は、目を細めて嬉しそうな顔をしたので、それが少し可愛くて和んだ。
バスが来ても女性は弁当を持って立ったままで、見送っている様だった。
一礼すると、又何か言ったが、やはり意味不明だった・・・・・・・。
バスの窓から見ると、凄い速さで山の斜面を駆け上って行く女性が見えて、 腰を抜かした。

山にまつわる怖い話50

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